住友重機械 ドラマの2幕目 「日本的」からの旋回 結局は「日本的」?

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自社には買収防衛策導入

住重側に焦りがあったことは間違いない。そもそも、関係がこじれ始めたきっかけは、昨年、アクセリスが合弁会社SENの住重側持ち分(50%)を買い取りたい、と申し入れてきたことだった。住重には到底、受け入れられる提案ではない。SENは住重の持ち分法投資利益の半分を占める。ただでさえ、住重の株価は史上最高値1624円から反落、一時は600円を割り込んだ。持ち分法利益を半減させ、株価に悪影響を与えるSEN売却など問題外だ。

この間、「日本的リストラ」の成功に引かれ、住重の外国人株主比率は01年の11.2%から32.6%まで急上昇した。つれて経営陣に対する圧力も格段に高まっているはずだ。とりわけ、外国人株主の不満は、船舶・運搬機のような「弱い」分野は堅調なのに、本来、成長を牽引するはずの「強い」ハイテク分野が頭打ちになっていることだろう。

減速機や射出成形機など「標準・量産機械」部門は依然、稼ぎ頭ではあるものの、部門利益は連続減益。世界トップシェアのDVD向け射出成形機も、ようやく規格一本化が成ったのに、動きはパッとしない。

ならば、と住重は考えたのではないか。いっそ、アクセリスを丸ごと買収する。そうすれば、合弁のSENの利益は全額取り込める(利益倍増!)し、アクセリスの立て直しに成功すれば、手っ取り早く「ハイテク分野」の成長を演出できる。不慣れな買収を確実にやり遂げるためには、手練(てだ)れのプライベート・ファンドに一肌脱いでもらおう--。

皮肉なパラドックスである。「日本的」なサクセス・ストーリーが外国人株主を引き寄せ、経営が株主利益に過敏になった結果、プライベート・ファンドと“結ぶ”という、「日本的」なるものからは最も遠い地平に飛び出してしまったのである。

だが、プライベート・ファンドと“結ぶ”ことが、株主利益にかなうかどうか、判然としない。TPGがバーガーキングで見せたように早期回収に走れば走るほど、大きな成功報酬を要求すればするほど、アクセリスの体力は細り、住重と住重の長期株主にはマイナスになる。

さらにマズイのは、一見、「日本的」から離れたかのような住重が、実は、「日本的」なるものから脱していないことだ。5月、住重の取締役会は「買収防衛策」の導入を決議した。決議案のリリースには「住友の事業精神」が高らかに謳(うた)われている。アクセリスのプーマCEOなら、さしずめこう言うだろう。「自分の企業文化を守るために外部からの買収を拒否しておきながら、人の会社の企業文化は買収で踏みにじってもいいと考えているのか」。

5月1日、アクセリスの株主総会では会社側が提案した定款変更が否決され、3人の改選役員も過半数の賛成を得られず、辞任した。株主はアクセリスのプーマ執行部に厳しい評価を下したわけだが、もし、住重の「買収防衛策」を事前に知っていたら、株主はどう反応しただろう。

6月6日、アクセリスは秘密保持契約を結び、住重、TPGと交渉に入ることに同意した。が、交渉開始は決着を保証するものではない。事態がさらにこじれれば、アクセリスの切り札マシン「オプティマ」の市場浸透がますます遅れる。独りほくそ笑むのは、トップのバリアン社である。

(撮影:梅谷秀司)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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