欧州を揺さぶる「壊し屋トランプ」の恐怖 メルケル首相の側近らは頭を抱えている

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もっともイラン核合意は国連安全保障理事会の決議を経た国際合意であるため、トランプ氏が一方的に抜けるのは難しいだろう。

欧州が懸念するのは、トランプ氏が合意を維持したまま、核以外の分野でじわじわと制裁を掛けるシナリオ。そうなればイランが合意を破るような対抗措置を講じる恐れがある。

革命的な事態

欧米間の引火点になり得る問題は他にも、イスラエルのヨルダン川西岸での入植問題や金融規制の緩和など枚挙にいとまがない。

ドイツ国際安全保障問題研究所のフォルカー・ペルテス所長は、トランプ氏によるツイッターの多用も欧州諸国にとって悩みの種だと言う。

「トランプ氏が『対ロシア制裁は馬鹿げているとプーチン氏に言われた』とツイートして、メルケル首相が午前3時に叩き起こされる?そんなことだって無いとは言い切れない」とペルテス氏は嘆く。

来年オランダ、フランス、ドイツで予定される国政選挙を巡る亀裂が、トランプ氏によってさらに深まる恐れを指摘する者もいる。来年は場合によってはイタリアと英国でも選挙があるかもしれない。

今年6月の英国民投票でEU離脱派が勝利した際、トランプ氏はすぐさま称賛の声を挙げた。EU離脱派の筆頭格である政治家のナイジェル・ファラージ氏とも親しい。

このため、極右政党・国民戦線のルペン党首が出馬する来年のフランス大統領選などを巡っても、トランプ氏の出方に関心が集まり始めている。

前出の西欧の上級外交官は、トランプ氏の首席戦略官兼上級顧問に指名されたスティーブン・バノン氏が、大西洋を越えて陰謀論をまき散らすことがないか、注視していくという。バノン氏は保守系サイト、ブライトバート・ニュースを率いた人物で、このサイトをドイツとフランスの選挙前に両国にも進出させる計画を発表済みだ。

「欧州市民はショック状態だ」と言うのは、欧州改革センターのディレクター、チャールズ・グラント氏。「トランプ氏がファラージ氏を支持したようにルペン氏を支持するようなら、欧米関係にとって革命的な出来事になるだろう。もしもユーロやEU、西側リベラルの秩序の破壊を望み、かつ親ロシアの人物を支持するなら、欧米関係を後退させるどころではなく、破壊してしまうだろう」と語った。

(Noah Barkin 記者)

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