北陸新幹線「小浜・京都」案は本当に最善か 工事や建設費で他ルート再浮上の可能性は?

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北陸新幹線が通る軽井沢駅の駅舎(写真:ponta2012 / PIXTA)

当初のルートは、軽井沢駅回りのルートと比べると距離だけでなく線路の勾配という面でも有利であった。線路の勾配は、水平方向に1000メートル進む間に15メートルの高低差が生じることを意味する15パーミルであり、軽井沢駅回りの30パーミルと比べてとても緩いのだ。

北陸新幹線の列車は安中榛名-軽井沢間を通過する際、長さ約15キロメートルにわたる30パーミルの勾配区間に苦労させられている。坂を登る列車のスピードは最新鋭の新幹線電車をもってしても山頂付近では時速190キロメートル程度にまで落ちてしまうし、坂を降りる列車も安全上の配慮から時速210キロメートルを超える速度では走らせられない。加えて、地形の関係で軽井沢駅の周辺に急カーブが誕生してしまった。

このため、軽井沢駅を通過する列車といえどもスピードは時速110キロメートルに落とさなくてはならない。建設費、所要時間の両面から軽井沢駅回りのルートは直行ルートと比べて劣っており、仮に北陸新幹線を東海道新幹線の代替と位置づけるのであれば、軽井沢駅回りのルートは絶対に採用してはならないとさえ言える。

軽井沢経由を望んだのは国鉄だった

ところが、軽井沢駅回りのルートは地元が誘致したものではなく、当時の国鉄が強く希望した結果実現した。国鉄は、多くの観光客が訪れる軽井沢に駅を設置することは営業政策上絶対に必要であると、北陸新幹線の建設を担当していた当時の日本鉄道建設公団(現在の鉄道・運輸機構)に申し入れたのだ。軽井沢町の人口は2016年11月1日現在で2万0926人、2015年度の北陸新幹線軽井沢駅の乗車人員は1日平均3559人である。全国有数の避暑地軽井沢を経由することには、いま挙げた数値以上の価値があると見なされたのだ。

長野・富山間は飯山、上越妙高、糸魚川、黒部宇奈月温泉の各駅を経由する長さ169.5キロメートルのルートが採用となったが、当初はさらに短い北アルプスルートが計画されていた。文字どおり北アルプスの山中を抜けていくというもので、三角形の2辺を行く現在のルートとは異なり、長野駅と富山駅との間をほぼ直線で貫く。地形図による筆者の計測では87キロメートルと、およそ80キロメートルも短い。

お察しのとおり、北アルプスルートは極めて深い山あいを行くために難工事が予想された。トンネルの長さは合わせて70キロメートルにも達するうえ、山自体も火山であるために内部は高温と建設の条件としては最悪に近く、1975年ごろには早くも候補から外されたという。

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