女たちはなぜ身体をトコトン鍛え始めたのか それは男の目線からは切り離された

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なぜ、女たちは身体を鍛え始めたのか?それは、女性の身体が「市場価値(つまり男の目線)」とは切り離されたからだ。それがいま、我々の目の前で現在進行形で起きている変化である。

もちろん、この今の環境が生まれるまでには、多くの歴史が刻まれている。「女性らしさ」「男性らしさ」という固定された価値観からの解放のために、マドンナを筆頭に多くの人々が取り組んできた。そしてその意識が進展するたびに、それを台無しにするような揺り戻しも日々起きる。寄せては返す波の繰り返し。それでも、今日のシックスパックの革命へとたどり着いた。

「どんなボディを得るのもあなたの自由」。「男の目線」から自由になる歴史的転換をまざまざと見せつけてくれる出来事があった。

山本美憂とRENAの一戦が見せつけたもの

2016年9月25日。総合格闘技大会「RIZIN」が開催され、そこでシュートボクシングの女王・RENAとプロ転向しデビュー戦を迎えたレスリング元世界王者・山本美憂の一戦が行われた。

この大会には、かつての栄光を誇ったPRIDE時代のスターたちが何人も登場していた。例えばミルコ・クロコップ。42歳の彼は、試合には勝ったが身体からはかつての面影は消え去っていた。かつてその肉体から「バトルサイボーグ」と呼ばれたミルコだが、その面影はすでになかった。山本美憂もまた42歳である。彼女には見事なシックスパックが備わっていた。引退後、再び作られた筋肉である。試合の中身も素晴らしいものだった。切れの良いタックルが何度も決まっていたし、アスリートとしての動作は、年齢など加味せずとも驚きの連続だった。試合には敗れた。一瞬のきらめきで勝利をものにしたRENAもまた、割れた腹筋を持った素晴らしいアスリートだった。

フジテレビの放送は、かつての熱を取り戻すことに躍起だった。実際に視聴率は、まずまずだったようだ。さて、内容は?それはいい。かつての総合格闘技の再興をかけたフジテレビは、まったく違う新たな鉱脈を掘り当てた。山本美憂とRENAの一戦は、かつてのPRIDEの高みの時代のレベルに届いていたのは間違いない。レスリングとシュートボクシングの異種格闘技である以上に、史上最高のシックスパックの共演。それを同時代のものとして観られただけでも我々は感謝すべきだ。

本当に人類は進化してしまうかもしれない。そんなふうに思える瞬間など、そう訪れるわけではない。我々が今目の前で観ているシックスパックの革命。その行方をとにかく見守っていきたい。

速水 健朗 編集者・ライター
はやみず けんろう

編集者・ライター。1973年石川県生まれ。主にメディアや年、消費文化などのテーマを扱う。近刊は『1995年』『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』。その他主な著書に『ラーメンと愛国』『都市と消費とディズニーの夢』などがある。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」のレギュラーを務めるなどさまざまなメディアで活躍中。

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