数学力

経営者自身が数字に強くなければならない

経営者が、精度の高い迅速な意思決定を行うには、数字に基づいた判断が欠かせない。数字は、経営の結果であり、これを分析することで、現状では見えないさまざまな課題が見えることもある。確かに経験や勘で優れた意思決定を行う経営者はいる。けれど、グローバル化の進展による競争環境の激化で、ますます数字の重要性は高まっていると言えよう。ここでは、スターバックスコーヒーCEOや、自然派化粧品「ザ・ボディショップ」を運営するイオンフォレスト社長などを務めた経験を持つリーダーシップコンサルティング代表の岩田松雄氏に話を聞いた。

現場の生の一次情報を経営者は重視すべき

(株)リーダーシップコンサルティング
代表
岩田松雄
Matsuo Iwata
大阪大学経済学部卒。日産自動車入社後、MBA取得。外資系コンサルティング、日本コカ・コーラを経て、「プリクラ」などを手掛けるアトラス社長、英国自然派化粧品の「ザ・ボディショップ」を運営するイオンフォレスト社長、スターバックスコーヒーCEOを務める。現在は、リーダー育成のための会社リーダーシップコンサルティング代表。立教大学特任教授

──岩田さんは多くの企業の経営に携わられ、中には売り上げを倍増させるほど業績を向上させた実績もあります。社長に就任されたときは、まずどのような情報を見るのですか。

岩田◉さまざまな経営資料を読み込みます。中でもじっくりと目を通すのは有価証券報告書(有報)です。有報には、売上高、利益の推移のほか対処すべき課題、キャッシュや在庫、借入金、さらには役員のプロフィールや報酬まで記載されています。特に数年分の有報を時系列で読んでいくと、企業がどの方向に向かおうとしているのか、どんな課題があるかといったことも見えてきます。

私はさらに、店舗ごとの数字を見ることにもこだわりました。小売店であれば、毎日の数字を見て、気になる店舗については、エリアマネジャーなどに尋ねていました。特に異常値については注意していました。

──経営者の中には、現場の情報がなかなか上がってこないと悩む人が少なくありません。

岩田◉席に座っているだけではなかなか情報は入ってきません。できるだけ自分で見に行くようにしました。もちろん、全店舗を実際見ることはできませんが、時間が許す限り見に行くようにしていました。よく抜き打ちでも見に行きました。まず店舗をしばらく外から観察して、それからスタッフの皆さんと話し、「何か困ったことはない?」と聞いて回りました。

中には、電球が切れたままになっているが、まだ換えていないといった声もありました。そういうときに私は、その場で本社の担当者に電話をして事情を聞きました。担当者を叱るためではありません。ある店舗で電球が切れているなら、同様の店舗がほかにもあるはずだからです。その原因が人手不足のせいであれば人員を増やすのかアウトソーシングを利用するのか、何らかの対策を行わなければなりません。それは現場の仕事ではなく、経営者の仕事になります。

数字を分解して見る習慣を身に付けてほしい

──経営者にとって、会計データも重要だと思われます。岩田さんが会計データを見るときのポイントはどのような点でしょうか。

岩田◉経営とは、雨が降っている夜中に飛行機を操縦しているようなものです。窓の外は真っ暗で、頼りにできるのは目の前に並んでいる計器だけです。正しい経営を行うためには、計器に正しい数字が表示されていなければなりません。

そのために大切なのが、まずタイムリーな情報とそのスピードです。私はどの企業でもできるだけ早く前月の決算速報値を出すよう経理部門などにお願いしていました。100万円単位の概算でもいいので、データが早く入手できれば、経営判断や意思決定の材料にできます。

私がもう一つ注意していたのは、数字の「ファクト(事実)」ベースで考えることです。たとえばあるクレームについて、「特に問題はありません」と担当者の判断だけで聞き流さないようにします。そのクレームがたとえ1件しかなくても、それが非常に大切なお客様であれば、社長が対応すべきかもしれません。まずはどのようなクレームで、誰からかという事実のあとで、判断を伝えてもらうようにします。大丈夫かどうかの判断は、レベルによって違う場合があるからです。

──まとめられた集計結果だけでなく、経営者自身がデータを直接見ることも大切だと言えそうです。

岩田◉そのとおりです。合計の数字や平均値だけ見ていても、実態は見えてきません。たとえば、「赤」という色と「青」という色があった場合、平均は「紫」になってしまいます。しかし、実際には「紫」は存在していません。

もちろん、そのためには経営者自身が数字に強くなければなりません。できるだけ定量的なデータを基に判断するようにすべきです。たとえば、メーカーであれば、製品の原価について1円単位で管理し、削減に努めているはずです。一方で、販促やマーケティングの必要については、外注に丸投げしているようなところが少なくありません。広告費などの外注費は、必ず他社との相見積もりをとったり、大きな金額であれば1社に集中する事なく、競争を促す意味で併注を検討すべきです。

売り上げや経費は予算だけではなく、必ず将来の着地数字を予測してもらうようにしました。もちろん数値が外れてもよいので、いま各部署手元の最新の情報で予測してもらうのです。いつもその数字を見ながら経営判断をします。

──最後に、会計データなど数字に強くなるコツがあれば教えてください。

岩田◉まずは店舗別の売り上げなどの基礎データは、毎日数字を継続的に眺める癖をつけることです。

それから自社の売り上げや利益がどのような構造から生まれているのか数字を分解して見る癖が大切です。

たとえば、小売店であれば、売り上げ同規模昨対比が大切です。さらに売り上げは、店舗前通行量×入店率×買い上げ率×客単価で決まります。お買い上げ客数が多いのにもかかわらず売り上げの小さな店もあれば逆もあります。その中身によって対策が違ってきます。

一つひとつの数字を継続的に見ていくことで、自社の強みや弱みが見えてきます。将来の着地数字を予測させたり、合計値や平均値だけではなく必ずバラツキや構成要素に分解して見る癖をつけましょう。