日本人にはまず作れない「東京ガイド」の中身 東京愛にあふれた英国人が自費出版で制作

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そんなある日、訪れたのが茶亭羽當だった。

「その日も雨が降っていて、僕はずぶ濡れで、寒くて、少し暗い気分だった。だから、少し気持ちを落ち着かせよう、気分をあげようと思って前から好きだったこの店に来た。そこで、彼がコーヒーを慎重に入れているのを見ながら、もっとこの店について知りたいと思ったんだ。コーヒーを入れる手順でこだわっていることはあるのか、なんでこんなにコーヒーカップがあるのか、誰がこのカップを選んでいるのか、誰が花を生けているのか、いつも違うコーヒーカップを選んでくれるのはなぜか、というようなことを」

同時に、「東京には大きくないけど、こういうこだわりの詰まった店がたくさんあることに気がついた。それで、そういうガイド本を作ろうと。(外国人の旅行バイブルと言われる)『ロンリープラネット』には5行程度しか書かれていないことを、しっかり取材して長く書きたいと思った」とスプレックリー氏は振り返る。

外国人が驚く日本人特有の野望と達成感

もともと旅行コンサルタントになる前は、東京でフードやトラベルライターとして活躍していたスプレックリー氏だけに、どんな店や人を載せたいかはある程度決まっていた。が、多くは取材拒否なのか、店主がシャイなのかあまりメディアに紹介されていないような店だった。そこで、知人、友人の人脈を介して取材を申し込む日々が続く。面白いのは、日本のメディアにめったに登場しない店でも、取材に応じてくれる人が多かったことだ。

店やサービスというより、むしろ人に焦点をあてた店舗紹介になっている

これには理由がある。当初、スプレックリー氏は富裕層向けのラクジュアリーなガイド本を想定していたが、取材を進めるうちに、「インタビューをした人たちに惹かれるようになり、人にフォーカスした本を作りたいと思うようになった。そこで、本のタイトルも『People Make Places(人が場所を作る)』にして、より人に焦点を当てた本を目指すようになった」。店だけではなく、その人がその商品やサービスに込める思いをしっかりと描く。このコンセプトに、普段は取材に消極的な人たちが心を開いてくれたのだ。

この本に一貫するテーマがあるとしたら、おそらく職人気質だろう。実際、スプレックリー氏自身、取材で出会った多くの人たちに共通点があると感じていた。「とても興味深いと感じたのは、ここの喫茶店の主人のように、多くの人が何をやっているのかにかかわらず、最高の仕事をしようと考えていることだ。この仕事への情熱やこだわり、職人気質というのは日本人特有のものだと思う」。

「取材した人たちすべてに感じたのは、彼らには独特の野望や達成感の感覚があって、同時にとても謙虚だということだ。彼らにとっての成功は、いわゆるグローバルスタンダード的な『リッチで有名になる』ということではなく、自分で考えうる最高の仕事をして顧客を幸せにすることなんだ」

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