インプレッサは、なぜプリウスに勝ったのか 日本カー・オブ・ザ・イヤー「一騎打ち」の裏側

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ちなみに新型インプレッサの開発当初は、従来モデルも販売好調なことから、社内からは「そこまで変える必要があるのか?」「現行モデルベースの改良版でいいじゃないか」とSGP採用に対して反対意見も多かったと聞く。それでも開発チームはいばらの道を選んだ。その苦労は並大抵ではなかったと思うが、スバルブランドを高みに上げる…と言う意味では、正しい決断だったと思う。

ただ、SGPは突然変異ではないということだ。スバルは目指すゴールは分かっていたものの、従来のプラットフォームであるSIシャシーではできない、もしくは実現できたとしても重量や効率上の無駄があることもわかっていた。そこで全てを一新させ、全てを盛り込んだのがSGP。今できる理想を実現させた…ということである。

ブランドに頼るのではなく技術で勝負

あるスバルのOBはこんな事も語っている。「今までのスバルは『ターボ』『ビルシュタイン』『ブレンボ』などを搭載することで、『凄いね、このクルマ!!』と言わせていた部分もあったと思いますが、それらがなくても“いいクルマ”と評価してもらうには本質が求められます。ブランド物に頼るのではなく『技術』でいいね…と思わせる。エンジニアの苦労は大変だと思いますが、やりがいは凄くあると思います」。

もともとスバルのエンジニアは真面目で、例えニューモデルの試乗会の席であっても、「まだまだ頑張らなければいけない」、「もっとよくなるはず」などとハッキリ口にするエンジニアが多かった。しかし、WRCから撤退する頃から「アイサイト」のアピールに熱心で、本来のコア技術である、「走り」に関しては声高らかにアピールせず、「どうしたスバル? お前も大企業病なのか?」と心配な時期もあったが、次の展開のための「エース=SGP」をシッカリと用意していたのである。

スバルの受賞は13年ぶり2度目(写真は筆者撮影)

新型インプレッサのエンジニアに話を聞くと、昔のスバルにあった「現状で満足しない」と言う、昔のスバルのエンジニアと同じ匂いを感じた。そんな「エンジニア魂」が新型インプレッサで形になったことが、今回の評価に繋がったと思っている。

もちろんインプレッサに死角はないか…と言うと、課題もある。例えば、独自技術の一つの水平対向エンジンは、実用域のパフォーマンスやフィーリング、実用燃費は確実にアップしている半面、水平対向ならではの独自性が薄れてしまっている。むしろポルシェ718に搭載された水平対向4気筒のほうが、スバルっぽいと感じてしまうくらい。

トランスミッションのリニアトロニックもCVTの中では頑張っているものの、DCTやATと比べるとネガな部分も否めない。更にナビゲーションなどのインフォテイメント機能など細かい部分にも改良の余地がある。そんなことはスバル自身がいちばんわかっているはずだ。阿部PGMに受賞後に話を聞くと、「期待に応えること、それがこれからの私の仕事です」と語っている。

山本 シンヤ 自動車研究家

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やまもと しんや / Shinya Yamamoto

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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