「勉強力」が皆無な高校生の、ひどすぎる現実 模範解答を事前に配る「教育困難校」の試験

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筆者も、受験校から「教育困難校」と呼ばれる高校に赴任した当初は、そのようなプリントの存在を知らなかった。1学期の中間考査前のあるとき、担当している3年生のクラスで、ひとりの男子生徒が「試験対策プリントはないの?」と聞いてきた。それは何なのか問うと、「プリントがないと、俺ら点数取れないよ。ほかの先生に聞いてみなよ」と言われた。そこで、ほかの教員に聞いてみると、すべての教員が作成し使っていることがわかった。

その後、筆者も作成するようになったが、どんなに生徒に不評でも、100点満点の80点まではそのプリントから出題し、残りは試験範囲内で関連する問題にするというルールは崩さなかった。少しでも生徒に考えさせたいという、ほとんど無駄な試みではあったが。同じ高校生でも、定期試験の際、十分に準備勉強をしたうえで、教師がどんな問題を出すか予想問題を作って、その当たり外れを楽しむ高校生もいる。その一方で、教師と共犯で、定期試験のときでさえ自分で考えない、自分では準備ができない高校生もいる。

「学ぶ力」がなければ、どうしようもない

実は、筆者は受験偏差値のあまり高くない大学で学生を教えている。そこで、ほぼ毎年、高校時代の定期試験で試験勉強を行ったかを尋ねるアンケートを取っているのだが、試験勉強をまったくしていなかったと答える学生が、コンスタントに10%程度はいる。それで、大学に来ようとし、入れてしまうこと自体が驚きだが、その問題はまた別の機会に述べたい。さらに、試験勉強をしたと答えた学生に、どのような試験勉強を行ったかを尋ねると、「試験前夜か当日朝の電車の中で、対策プリントと教科書をひたすら暗記」「対策プリントをひたすら暗記」「プリントで試験に出そうなところをひたすら書き写す」といった、本来の試験勉強から懸け離れた回答が数多く見られる。

学んだことの中で、どこが大事かを自分で考えようとしない、試験の問題は教師が教えてくれると思い込んでいる高校生を迎える企業や上級学校は、さぞ指導に悩まれていることだろうと推察する。だが、彼らだけを責めないでほしい。大事な試験の準備さえ自主的にできないようになったのは、家庭や学校にも大きな責任があるからだ。

今後の社会では、考えられる人、主体的に学び続けられる人が求められると言われている。そして、そのような能力を持たない人々、つまり、現在の「教育困難校」の生徒たちは、社会の中で安定した場を持ちえない存在になると危惧される。彼らが学習に完全に背を向け試験勉強さえもしなくなる前に、何かしらの手が打たれるべきだったのだが、現実には彼らだけでなく、彼らの予備軍にも何らのフォローもなされていないようだ。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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