横須賀と藤沢、何が明暗を分けた理由なのか 地価、人口…住宅地としての魅力の差

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京急線だけでは網羅しきれない徒歩圏外のエリアが非常に多く、バス便も市郊外は充実していません。特に相模湾側の西部地区は電車もバス便もほぼない「陸の孤島」状態となっています。

横須賀市は隣の横浜市南部などに比べれば地価が低いため戸建住宅を購入しやすいとはいえ、多少住まいが手狭になっても、住環境の良好な横浜市等への転出が避けられない状況と言えます。

2015年に中心市街地に市内初のタワーマンション「ザ・タワー横須賀中央(地上38階建)」「サンコリーヌタワー横須賀中央駅前(地上26階建)」が2棟ほぼ同時期に竣工しています。

特に「ザ・タワー横須賀中央」の最上階は1億円を超え、富裕層をターゲットとしていますが、地元不動産業者によれば「全体として大半は市内居住者の住み替えで、市外からの転入者は少ない。1~4階は商業ゾーンとなっているが、目玉になるような店舗がなく魅力に欠ける」との声が聞かれます。

「サンコリーヌタワー横須賀中央駅前」は地元業者により建築された建物でありブランド力に欠け、売れ残り住戸も依然として多い状況である模様です。加えて「タワーマンションになると、活断層による地震に対する不安が一層強まり、購入に二の足を踏む人が多い」という地元不動産業者の指摘もあります。

本来であれば最もマンションの購入に積極的な30~40代人口の流出に加えて、高所得者層が全般的に少なく、加えて活断層などのリスクもあるため、今後も市内にタワーマンションが増加する見込みは少ないでしょう。

明るい話題に乏しい状況が…

人口減、住宅需要の低迷は、当然市内の商業地にも影響を及ぼします。横須賀市の中心商業地の地価は、2016年1月1日時点で1平方メートルあたり83万5000円とこの10年で約9%もダウン。一方、藤沢市の中心商業地の地価は2016年1月1日時点で1平方メートル当たり144万円。この10年間で見ても3%強上昇しており、街の勢いの差が伺えます。

横須賀市の中心部にあり、主要商業施設であった「さいか屋」の一部(大通り館)、西友が閉店していることも大きな原因でしょう。さいか屋大通り館跡地は現在、大規模な青空駐車場になっており、いまだに有効な活用がなされていません。周辺の商店街も、実際に歩いてみると空き店舗が目立ちます。郊外にロードサイド店が増えているとはいえ、もっぱら買い物客は隣の横浜市へと流出しているのは明らかです。

また、同じ県内のベッドタウン地域で比較すれば、辻堂駅(藤沢市)のテラスモールが2011年オープン、海老名駅(海老名市)のららぽーとが2015年オープン、平塚駅(平塚市)のららぽーとが今年オープンし、活況を呈していますが、横須賀市にはこのような大規模商業施設の建設予定もなく、明るい話題に乏しい状況です。

こうした状況を受けて横須賀市は「空き家バンク」と呼ばれる独自の取り組みによって、若い世代や子育て世代の空き家活用を促進し、リフォーム費用の補助金等の支給も制度化して、何とか人口減に歯止めをかけようとしています。

ただ、住宅地としての魅力低下、人口減の傾向に歯止めをかけるのは容易ではありません。豊富な自然も海軍カレーもネイビーバーガーも猿島も、「都心から近い観光地」としての人気は高めているものの、「住む街」としての人気には影響しないのが実情。近年の都心の好景気や地価上昇傾向に左右されることなく、長期的に見ても今後も地価が徐々に下がっていく地域であると予測されます。

藤田 勝寛 不動産鑑定士、宅地建物取引士

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ふじた かつのり / Katsunori Fujita

不動産鑑定士、宅地建物取引士、相続診断士。「株式会社あかつき不動産サービス」「士業ネットワークのあかつき不動産株式会社」代表取締役。神奈川県横須賀市出身。1974年生まれ。中央大学卒業後、大手不動産会社で勤務後、不動産鑑定士資格を取得。みずからが設立した会社で不動産評価や不動産有効活用、不動産鑑定・相続コンサルティング、不動産仲介なども手がける。陸上競技選手として2016年 アジアマスターズ選手権「40~44歳の部」400mで金メダル獲得
 

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