出光興産創業者は、一体どこが凄かったのか 「海賊とよばれた男」監督から見た出光佐三

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――そこは戦い?

戦いというよりも、数を積み上げてこなしていくための壁という感じです。CGって不思議なもので、一番出来の悪いカットが、その作品のCGの基準点になるんです。いくらすばらしいCGがたくさんあっても、悪いカットが1つでもあると、それが基準点になって全体の印象にも影響してしまうんです。だから全体の歩留まりを上げていく作業をしなくてはならない。全体がパーフェクトでなくてもいいんですが、8割、9割できているものをそろえることは大事にしています。なかなか出てこないカットがあったら応援も頼まなきゃいけないし。だから全体の予算の中で臨機応変にやっていかないといけないので、その調整が難しいですね。

出来の悪いCGカットを作らないことが重要

「国岡商店」の社員たちが歌う「社歌」は、作品の重要な要素となっている ©2016「海賊とよばれた男」製作委員会 ©百田尚樹/講談社

――日章丸事件が1953年。『ALWAYS 三丁目の夕日』が1958年の世界なので、描き出す年代としては近く、やりやすさもあったのではないでしょうか。

そうですね。ただし『ALWAYS 三丁目の夕日』は架空の世界でしたが、今回は実際のものをできるだけ寸分違わず作らないといけないという要素が多かったんです。例えば脚本に「アテナ石油」というガソリンスタンドのシーンを書いたんですけど、実際に撮影するとなると、そのワンシーンのために当時のガソリンスタンドを再現しないといけない。スタッフからはどうするんですかと言われても、知らないよという感じで。この脚本家は何を書いてくれているんだと思ったんですが、この脚本を書いたのは自分なんですよね(笑)。そういうことばかりでした。

――今の時代にないものをどうやって映し出すのかを考えないといけないと。

東京大空襲で家が燃えていくところでも、住民が逃げ回っている中、焼夷弾がバンバンと落ちていくところをどう撮ったらいいんだと。それだけのためにセットは作れない。日章丸だってこの世には存在しない。あの当時の船は残っていないけども、登場シーンは結構長いから、これはセットを用意した方がいいのか――。1回しか出てこないならデジタルで処理をした方がいいし、何回も出てくるところはセットを作った方がいい。そういったコスト計算を考えながらやらなければならなかったので、非常に大変でしたね。

――予算的にはどうだったんですか? この題材だから以前より増えたということは?

そんなに変わらないですね。もちろん邦画としてはものすごく多い方なんですけど、通常運転だと思います。でもこの映画で要求されている水準を考えれば、比較的安くできたと思いますよ。昔ならミニチュアを作らないとダメだったシーンも、デジタルで出来るようになっている。さらに人の手がかなりかかっていた作業も自動的に処理できたりとか。デジタル技術が進んで映像を作るコストを下げられたことで、つじつまが合った感じですね。

――国岡鐡造が立ち上げた国岡商店には「社歌」が登場します。山崎監督ご自身が手がけられたと伺っています。

やはり戦っている人たちなので、みんなで歌える歌が欲しいと思ったんです。木を切る人がみんなで歌を歌って一丸となる習性がある、というような、昔から日本人の中に脈々と受け継がれてきた舟歌のようなものが、社歌に込められたらいいなと思いました。ラストには社歌が流れるイメージが浮かんだんです。だからかなり早い段階で、社歌は作ろうと思いましたね。

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