韓国・李明博大統領−就任100日で迎えた政治的危機

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就任からわずか3カ月ほどで経済的成果を望まれても少し酷だとは思うが、それ以上に、韓国国民からすれば「ろくなことはしていない」と言うのである。

過去最高の得票率で当選した李大統領だが、当選後から数々のトラブルを引き起こしてきた。

まずは、当選後に行った大統領府の首席秘書官や閣僚の人選である。

「実用主義」を打ち出した李大統領にとって、「きちんと仕事をし、成果を出すような人事」を行ったはずが、それが裏目に出てしまった。主要閣僚や首席秘書官の数人のうち、指名を発表した直後に土地の不正取引などのスキャンダルが暴露されるなど、指名辞退に追い込まれた。また、清廉潔白でも、経歴が大企業役員や大学教授など富裕層が多い布陣となったため、「庶民の気持ちがわからないカネ持ち政権」と揶揄されるなど、この段階で国民の不満が蓄積し始めた。

さらに、与党・ハンナラ党内の混乱も加わる。大統領選候補を決める党内予備選で大接戦を繰り広げた朴槿恵(パク・グネ)前代表との不和・対立がそれだ。

朴前代表は、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の娘。1997年に政界入りして以降、国民に絶大な人気を誇ったものの、予備選では李大統領に僅差で敗れた。

ところが4月の総選挙では党の公認候補の選定をめぐって朴前代表と対立。李大統領の意を受けた党の最高幹部らが「客観的で実用的な人物を基準とする」とし、朴前代表側の候補者はことごとく公認から外された。

これに対し朴前代表は「(勝者の)傲慢の極致」と激しく非難、本人は党内に留まったものの、公認から外れた候補者は「親朴連帯」「無所属・親朴槿恵」として離党した。

ところが、総選挙で親朴連帯は18議席を獲得、無所属で朴前代表派は善戦。そのため、ハンナラ党は確実視されていた安定多数を取りこぼした。「公認候補の選定をきちんとやっておけば、安定多数は取れたはず」と党内外から、大統領へのリーダーシップに対する不満が生じてしまったのである。

また、かつての敵とはいえ同じ党内の人間に対するこのような仕打ちに、国民も眉をひそめた。特に朴前代表を強く支持する若年層や女性からは、李大統領を「心が狭い」「度量が小さい」との反感も生じさせてしまった。

「“実用”など効率ばかりを考え、政治を行ううえで必要な道徳性などを考慮しなかったのが間違い」と韓国紙政治部記者は指摘する。すなわち、「実力があって実績さえ出せばいい」という傲慢さが李大統領にあったのではないか、ということだ。

政治は効率ばかりでは進まない。国民が納得する複雑な感情を一つ一つ解きほぐしながら進めるのが政治だが、経済大統領が裏目に出たと言っても過言ではないだろう。

「牛肉輸入再開は宿泊代」?

デモが始まってからも、国民の不満は拡大する。

まず、米国産牛肉の再開を発表したタイミングが問題となった。韓米首脳会談の会場は大統領別荘であるキャンプデービッドで行われた。ここは、日本の小泉純一郎元首相など、ブッシュ大統領との関係が良好な首脳のみが招かれる。ここで李大統領は米国産牛肉の輸入再開などを告げている。

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