日本人は「人口急減の恐怖」を直視するべきだ 高齢者と若者の溝は、ますます深まっていく

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森田:「住み方」を変えていく必要が出てきます。子どもの数が減れば、学校はそんなにいらない。一学級あたりの人数が減って教師もこれまでのようにいらなくなる。うまく学校を統廃合すれば、少ない数の先生で質の良い教育が受けられる可能性があります。

ただ、住む地域によっては一人あたりのコストが上がりますから、住み方の問題は考えなければいけない。元岩手県知事で前回の都知事選にも出た増田寛也さんの『地方消滅』という本が話題になりました。規模を維持できない自治体が増えていき、いずれ896もの自治体が消滅するという予想です。消滅というと悲しいですが、上手にコンパクト化をするという政策はある。すでに地方では空き家問題が出てきていますが、不動産の需要減で、土地の資産価値が下がることの影響も見逃せません。

高齢者と若年層の軋轢が高まっていく

木本:どこを増やしてどこを減らすかをみんなで考えるしかないですね。

森田朗(もりた あきら)/国立社会保障・人口問題研究所所長。1951年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、千葉大学法経学部教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授、同公共政策大学院院長、厚生労働省中央社会保険医療協議会会長などを歴任。2014年4月より現職。人口問題、行政学、医療・社会保障、政策地方自治などについて積極的な提言を行なっている。著書に『会議の政治学I~III』(慈学社出版)など(撮影:梅谷 秀司)

森田:人口が減ると労働力が減りますが、これは同時に消費者も減ることを意味しています。企業は国内をマーケットにしているだけだと事業規模を縮小しなければいけない。今は海外でたくさん売って、企業収益を確保しています。今後必要になる労働者をどう確保するのか。海外から入れるのが難しければ、高齢者に働かせようという方向になっています。

木本:でも、できる仕事は限られるのではないでしょうか。

森田:最初は定年延長でしょうね。今は労働力不足なので歓迎されますが、将来的には高齢者の比率が増加していく。そうなると、若い人から職場を奪ってしまうおそれもあって、その調整で大きな軋轢を生みます。今後しばらくは、そこが大変なことになります。

木本:古い世代の人が会社に残ると、若い人は働きにくい。そうなると、それがイヤになって会社を辞めていく人も増えそうですね。会社の中に残っている高齢者に対して、「もう辞めてくれないかな」という気持ちになる人もいると思います。もちろん、高齢者にも働く場所や働きがいがあったほうがいいんでしょうけれども。

森田:今までとはまったく違う下り坂のカーブです。これまでは足りないものをどう増やすかに知恵を絞ってきましたが、これからは余っているものをどう切っていくかにフォーカスしなければいけない。

国民意識の変革と、新しい仕組みが必要です。公共事業で作った橋や道路が老朽化して建て替えるとします。橋を渡った向こう側の人口がどんどん減っているので、今まで3本あった橋を全部修繕することはできない。1本だけ修繕して、残りの2本は閉鎖するという場合、どの橋を残せばいいのか。どうやって決めればいいのか。

木本:誰だって「自分の家の目の前にある橋」を残したいですよね。そうなると、いろいろな対立が生まれそうです。

森田さんは優しい方ですよね? ひょっとして、あまり日本人を不安がらせないようにしていませんか(笑)。鈍感な僕に「最悪の話」を教えてください。

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