「性犯罪加害者の妻」が離婚を選択しない理由 逮捕されたその日から生活は一変するが・・・

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夫は妻の知らないところで性的逸脱行動を学習し、それを繰り返すことでスキルアップする。たとえ夫婦関係に問題があったとしても、それは痴漢をしていい理由にはならない。また、セックスレスと性的逸脱行動には何ら相関性がなく、セックスフルな夫婦生活を送っていながら、痴漢行為をする男性も珍しくない。

「加害者家族は自分は何もしていなくとも、スティグマ(負の烙印)を背負わされる傾向にあります。家族自身も負い目を感じて、それに反論しません。その結果、心身の健康を損ない、職も失い、社会生活がままならなくなる……。そのため、加害者家族は“隠れた被害者”と呼ばれています」

加害者家族が事実を受け入れ、家族関係を見直し、自立して社会生活を送れるようサポートする「家族支援グループ」にはこれまで延べ400人、うち「妻の会」には延べ70人が参加している。

「痴漢、即離婚」とはならない

さて、お気づきだろうか。「妻の会」ということは、参加している女性たちは痴漢加害者である夫と離婚せず婚姻関係を維持している。夫の事件がメディアで報じられた場合は、子どもに害が及ばないよう姓を変えるために離婚することもあるが、「痴漢、即離婚」とならないケースは案外多いのだという。

東京・榎本クリニックで性犯罪加害者の再犯防止プログラムに注力する斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)

「当クリニックを受診する男性に限っていうと、離婚していない例が多いです。これは妻側から、“婚姻関係を継続する”“家族との生活を続ける”ための条件として再犯防止プログラムの受講を提示されることが多いからですが、妻には妻の理由があります。加害者は家族にとってはよき夫、よき父であることが多いからです。“痴漢さえしなければ、いい夫なんです”というのは、参加されている妻の口から聞かれる定番のセリフです」

被害者はこれを読んで、目を疑うだろう。許しがたいとも思うかもしれない。女性を傷つけておきながら、家庭ではよき夫でよき父として妻や子どもらから愛されている。裁判に情状証人として立つ妻も少なくなく、更生に協力もしてくれる。

「当クリニックで行われている加害者更生プログラムは内容も厳しく、しかも長期間にわたるので、途中でドロップアウトする人も少なからずいます。性犯罪は常習化すると再犯率が高いといわれているので、私たちのような治療施設との関係が途絶えてしまうと、再犯の可能性は高くなると言わざるをえません。しかし、家族の協力がある加害男性は、継続して通院する傾向にあります。大きな矛盾をはらんでいることも踏まえつつ、あえて言うなら、新たな被害者を生まないためには、家族の協力を得て治療継続率を高くすることもひとつの方法なのです」

とはいえ、妻も夫の犯行を知らされた直後から、協力的になれるわけではない。警察からの連絡はまさに青天の霹靂。あの夫が性犯罪をするなんてありえないと、まずは混乱し、事実を否認しようとする。筆者が傍聴した痴漢裁判(迷惑防止条例等違反)でも、情状証人として出廷していた妻が「最初は、冤罪だと思っていた」と述べていた。

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