東急がシェアオフィス事業に乗り出したワケ もう一つの「満員電車ゼロ」に向けた取り組み

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なぜ、鉄道会社がサテライトシェアオフィス事業を始めたのかという問いに対し、永塚さんからは「少しでも通勤混雑の緩和に役立ってほしいから」という答えが返ってきた。まだ拠点数は足りないが、今後増えて東急沿線の各駅に住む人が最寄り駅で気軽に使えるという状況になってくれば、そして他社の鉄道路線でもこうしたサービスが本格化すれば、普及は進むかもしれない。

現在、New Workのサービスを利用しているのは30社程度という。では利用企業の側ではどう考えているのだろうか。そのうちの1社である外資系の大手日用品メーカー、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスに話を聞いた。

同社は今年7月から新人事制度「WAA」を導入した。上司に申請すれば理由を問わず、会社以外の場所で勤務でき、また、平日6~21時の間で勤務時間や休憩時間を決められるというものだ。従来の在宅勤務制度やフレックスタイム制度をさらに推し進めた。「すべての社員が自分らしく働けるだけでなく、社員一人ひとりの生産性が高まり、企業の持続的成長にもつながる」と、島田由香・人事総務本部長は説明する。

他社にも同様の活動を呼び掛ける

会社以外の勤務場所は自宅、カフェなど場所を問わないが、同社では東急のNew Work、イトーキの「SynQA」、東急不動産の「ビジネスエアポート」といったサテライトシェアオフィスとも契約した。「社員に大変好評で、池袋や大宮といったサテライトオフィスのない場所にもぜひ設置してほしいという声も多数寄せられている」という。

ユニリーバではWAAを単なる社内活動にとどめず、多くの日本企業にも広めていきたいとして、社外向け説明会も積極的に開催している。11月8日に開催された説明会開発では、ソニーやカルビーといった大手企業も参加した。参加した企業の人事担当者からは、会社の目が届かない社外勤務を不安視する質問も出たが、「2万パーセント性善説です。社員を信頼しています」と島田さんは言い切った。

大企業を中心にフレックスタイム制を導入する企業が増えている。しかし制度の普及とは裏腹に「早起き出勤しても退社時間が同じでは、むしろ勤務時間が増える」「ゆっくり出社するとサボっているような目でみられる」といった理由から、せっかく制度があっても多くの社員に活用されるという状況にはほど遠い。

その結果、満員電車はいつまでたってもゼロにならない。しかし、企業の側がさらに踏み込めば、従業員も行動を始めるのではないだろうか。10人に1人が行動するだけでも混雑率は確実に減る。「通勤ラッシュを撲滅したい。企業の側から社会を変えていくこともできる」と、島田さんは力を込めて語った。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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