金融市場はこれから不安定化する危険がある マーケットは「FRBの役割」を忘れていないか

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金融市場は期待をエネルギーに動く。したがって、「物価の安定」という責務を負うFRBは、トランプ次期大統領の政策が実行され効果を発揮するかどうかを確認するまで待つことはできない。インフレを防ぐために、期待の芽を摘み取っていかなければならない。期待は市場だけでなく、物価も動かすからだ。

イエレン議長には、2代前の議長だったグリーンスパン氏の先例も当然ながら頭にあるはずだ。同氏は1990年代前半に「preemptive strike(先制攻撃)」と称してインフレが顕在化する前に小刻みな利上げに動き、米国の持続的成長と堅調な株式市場を達成し、「マエストロ」と呼ばれた。だが、2000年代に金利を歴史的な低水準に放置したことで、リーマンショックを招いたと後に批判に晒された。このことはイエレンFRB議長の教訓となっているはずだ。

FRBがブレーキ役に回ったことを忘れてはならない

大統領選挙後にFRBが利上げに動くことは、経済指標等から想定されていたものだ。ただ、これまでの延長線上にない政策を掲げるトランプ大統領誕生は、クリントン大統領誕生よりもFRBに利上げを強く促すものだ。

金融市場でトランプ氏の政策への期待が高まったのは、米国の経済政策が「限られた財政支出+金融緩和」から「積極的財政支出+金融引き締め」へと方向転換したことによる。忘れてはならないのは、積極財政への期待がバブルを生まぬように、FRBがブレーキ役に回ることだ。

それゆえ、足元の金融市場が抱えるリスクは、トランプ次期大統領の政策の実行性や効果ではない。市場が、FRBがブレーキ役側に回ることになったのに、そのことを忘れて暴走することだ。

12月2日には11月の雇用統計が発表される。ここからFOMC(米公開市場委員会)が開催される13~14日にかけて、金融市場が不安定な動きになる可能性があることだけは、頭に入れておく方がよさそうだ。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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