「認知症患者の行動」家族が背負う責任の重さ 法的問題と加害者になるのを防ぐのは別問題

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監督義務とは、未成年の子に対する親の義務をイメージするとわかりやすい。親権者である親は、子に社会性を身に付けるために教育し、ときには違法な行為に及ばないよう監督する義務を負っている。つまり子供に対する親の監督義務はかなり広範囲に及ぶ。

では、認知症患者が家族にいる場合、家族はその認知症患者の行動に対して、親の子供に対するように「監督義務」があるのだろうか。

結論からいうと、監督義務はかなり限定されている。監督義務の有る無しはケースバイケースで、明確な基準はないというのが現状だ。

これまで認知症患者の家族に責任追及をしたケースは多くないが、一つ参考になるケースがある。今年の3月に最高裁裁判所での判決があった事案だ。東洋経済オンラインでも「認知症患者の鉄道事故裁判、『逆転判決』の理由」(3月2日配信)で解説している。

過去の家族の責任が追及されたケースではどうだったか

これは、2007年12月7日、東海道本線共和駅で発生した鉄道事故の裁判である。認知症患者A氏(要介護4、認知症高齢者自立度Ⅳ)が線路に立入り走行してきた列車にはねられたことにより、JR東海がA氏の遺族に対して、振替輸送費等の損害賠償を請求する訴訟を提起していた。

一審の名古屋地裁は、A氏の妻と長男に対して請求額約720万円全額の支払いを命じる判決を出した。これに対し、二審の名古屋高裁は、長男に対する請求を退け、A氏の妻にのみ損害賠償の支払いを命じ、かつ請求額の半額約360万円のみの支払いを命じた。

最高裁は、A氏の長男はもちろん妻についてもJR東海への損害賠償義務を否定した。最大の争点は、妻が民法第714条1項にいう認知症患者(責任無能力者)に対する法定の監督義務者としての立場にあるか、あるとした場合に監督義務者としての責任を果たしていたかどうか、という点であった。しかし最高裁は、そもそも妻は監督義務者の地位になかったと判断した。

A氏は自宅で妻の介護を受けて生活していた。その妻自身も85歳と高齢で、足に障害があり、十分な介護が難しい状況にあった。子は実家を出て20年は経っていて、度々帰省していたものの、直接、介護にかかわることはなかった。

事故があったのは夕方ごろだ。妻は自宅で片づけをしていて目を離したすきに自宅を出てしまう。普段は一人で駅に近づくということはなかったが、この日だけは駅に立ち入ってしまい、不幸にも列車と衝突してしまう。

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