59歳社長の自殺を招いた「酒による擬似うつ」 「もはや進退窮まれり!」の前に酒をやめよ

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エグゼクティブの仕事の全体像を把握しているのは、自分だけ。権限が大きい一方で、責任も重い。重大な案件を前に、独り自室で震えていることもあるでしょう。

エグゼクティブ自殺の裏に「多量のアルコール」

ただ、実際にエグゼクティブとお会いして感じるのは、必ずしもこのような仕事の厳しさがこころの健康を損なうかというと、意外にそうでもないことです。

伊藤忠の元会長、丹羽宇一郎氏が発言しているように(『人は仕事で磨かれる』)、仕事だけで体が壊れることは決して多くありません。エグゼクティブのような職位の高い人は、強靭的な体力を持っていることが多いため、特にそうです。

健康を害するのは、仕事自体ではなく、むしろ仕事に付随する生活習慣の要因が大きいのです。エグゼクティブが窮地に追い込まれて自殺することはありますが、多くのケースでその直前のアルコールや睡眠薬の乱用があります。精神科医の私からすれば、「アルコールの入っていない冷静な脳で判断すれば、起死回生の一手も浮かんだかもしれないのに」と思うことがしばしばです。

遠藤一郎さん(仮名、59歳)は、自殺目的で抗うつ薬、睡眠薬、頭痛薬をウイスキーと一緒に大量服用して、救命救急センターに搬送されました。幸いなことに一命を取り留め、覚醒後に事情を伺ったところ、地方都市で経営していた金属加工の会社で経理不正が発覚、監督責任を問われて連日事後処理に追われていたということです。

それと同時に、不眠・抑うつ症状が現れ、隣県の心療内科医院を受診。以来、抗うつ薬と睡眠薬が処方されていました。ただし、断酒指導は行われておらず、連日2~4合の飲酒を続けていたということです。

遠藤さんの奥様によれば、金属加工の会社を経営する一方、公益団体に関与し始めた頃から飲酒が習慣化。会合が多く、そのたびに関係者から次々に酒を注がれ、拒むこともできないままに、次第に酒量が増えていったとのことでした。事件発覚以降は、眠るために酒を飲むようになり、朝方には吐き気や頭痛が残る状態となっていました。

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