風俗に売られた「3児の母」の壮絶すぎる半生 1000万円の連帯保証が転落の始まりだった

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生活保護を受給して自宅で療養したが、壊れた家族が元に戻ることはなかった。長女は地元の似たような境遇の仲間とつるむようになり、非行に走った。なんとかしようと長女とは何度もぶつかった。「男にだまされるあんたが悪い」と何度もなじられた。次女は小学校1年で登校拒否となった。7歳から外にでることを怖がり、学校にほとんど行かなくなった。19歳になる現在まで、その状態が続いている。

そして山内さんは向精神薬によってどんどんと状態はおかしくなり、完全に破壊されてしまった。

「自殺は何度も何度も考えました。実際に自殺未遂は何度もしていますし。でも今思うのは、私にできることは絶対に死んではいけないってこと。私が逃げてしまったら、おそらく次女は後追いします。それだけは親として許されないし、現実とか生きることから逃げてはいけないと思うのです」

長女は成人して家を出て、現在は他県で恋人と同棲する。すっかり落ち着き、たまに連絡がある。長男はコツコツと勉強して奨学金をフルで借り、中堅大学に進学して勉強を続けている。1日でも早く家を出ることを望み、深夜にアルバイトをしておカネを貯めているという。そして次女だけが負のスパイラルから抜け出せずにいる。

生活保護から抜けて普通になりたい

「私も次女も望んでいるのは、やっぱり生活保護から抜けて普通になりたいということです。人様の税金で生かされて、自分が健康だったらそれはズルいと思うだろうし、抜けたい、人に迷惑をかけたくないという気持ちは強くあります」

今月。10年間以上、引きこもる次女は腹をくくってアルバイトを始める。近所のレストランの厨房に面接に行き、来週から仕事をすることが決まった。山内さんも生活保護から抜けることを最大の目標にする。とてもフルで働ける健康状態ではないが、「登録ヘルパーに戻って少しずつ働く」と決めている。週1~2日、薬を飲んで3~4時間働くのが現在できることの精いっぱいだ。

彼女が抱える現実はまさに地獄だった――ただ絶対に逃げない、それが子どもたちのためにできるたったひとつのことだから。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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