米大統領選トランプ勝利が突き付けた課題 主要メディアが「敗北」した

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嘘のニュースの中には「フランシスコ・ローマ法王がトランプ氏を支持した」「(クリントン氏が国務長官時代、私用メールサーバーを利用し続けた問題で)メールが外部に漏洩した疑惑があるとしていた米連邦捜査局(FBI)捜査員が、自宅で自殺に見せかけて殺害されたのが見つかった」といったものだ。

ちなみに、米国の成人の半分以上が、ニュースはフェイスブックなどのソーシャルメディアから得ている。バズフィードが調査した結果は、有権者の半分が示したものといえよう。

極右オピニオン会長が政権入り

トランプ氏は選挙戦中、集会で毎日のように「最も不正直」「嘘つき」とこき下ろしていた主要メディアへの攻撃を、当選後も続けている。批判記事を書いたニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、政治ニュースサイト「ポリティコ」の記者を、選挙集会の報道席から締め出したりしていた。以下は、当選後のツイートだ。

「ワオ、ニューヨーク・タイムズは、哀れむべき、とんでもなく不正確な『トランプ現象』の報道のせいで、何千人もの購読者を失っている」

「ニューヨーク・タイムズは、私についてのひどい報道で、購読者に詫び状を送った」

詫び状というのは事実ではないが、1400万人のトランプ氏のフォロワーは信じるだろう。ニューヨーク・タイムズはこれに対し、17日にプレスリリースを出し、投開票から1週間で、4万1000人の新規購読者(宅配とデジタル購読)を得たと発表した。1週間の伸びとしては、11年にデジタル購読のセットを設けて以来という。

マーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)はプレスリリースで、トランプ氏を名指しすることはなかったが、こう述べた。

「編集局は、選挙戦中飛び抜けたいい仕事をした。それが、過去最高のオーディエンスと何万人もの新規購読者を得る結果になった――これは市民がいかに高品質で、深く掘り下げ、独立しているジャーナリズムを求めているかという証拠だ」

一方、トランプ氏のホワイトハウス移行チームは、極右のオピニオンサイト「ブライトバート」のスティーブ・バノン元会長を、首席戦略官・上級顧問に選んだ。ブライトバートは、「シリコンバレーの女性ハイテク企業CEOは、なぜ失望とペテンで終わるのか」といった女性・人種差別の記事のほか、選挙戦中は、トランプ氏の行動よりも、クリントン氏を糾弾する記事を載せ続けた。選挙戦後は、主要メディアのテレビアンカーらを批判する記事を掲載している。しかし、ブライトバートがホワイトハウスの記者クラブに入るのは間違いないだろう。

新聞、テレビ、ラジオといった伝統的メディアは、今後、正しいニュースをどうやって読者、視聴者に届けていくのかという手法を真剣に探らなければならない。

津山 恵子 ジャーナリスト

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つやま けいこ / Keiko Tsuyma

東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、『AERA』に執筆した。米国の経済、政治について『AERA』ほか、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」「HEAPS」に執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など。X(旧ツイッター)はこちら

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