路面電車の「速度オーバー」事故は防げるか ロンドン路面電車の事故で浮上した課題

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事故現場付近に献花する人々

事故発生時の様子について停留所付近に住むスー・パテル氏は、明け方に大きな衝撃音が聞こえ、最初は自動車事故でも発生したのだと思っていたが、やがてヘリコプターの音が聞こえ、重大な事故が発生したことに気付いたと語っている。

一方で、この現場のカーブについては10月31日にも速度オーバーがあったと、利用客から交通局に苦情があったことも分かっている。利用客のアンディ・スミス氏は「あまりにスピードが速かったので、とてもカーブを曲がり切れるとは思えず、脱線すると感じた。このような事故は、いつか起こるのではないかと予感していた」とインタビューに答えている。

この10月31日の事故については、別の乗客もFacebook上で「カーブに40マイル(約64キロ)で進入し、片輪が持ち上がったのではないか。私たち乗客は全員、時が止まったと感じただろう。しばらく車体の揺れが止まらなかった」と記している。また、現場付近に住むパット・ルーク氏は「列車はたまに非常に速い速度でカーブへ進入していた」と語っている。

クロイドンのトラムでは、これまでも年に数件は自動車との接触事故が発生しており、2012年2月には脱線事故も発生したが、この際は、100人の乗客は負傷者もなく無事であった。昨年、開業15周年を迎えたトラムの歴史の中で、今回の事故は間違いなく最悪の惨事だ。英国内でも、5人以上の死者が発生した鉄道事故は、2001年にノースヨークシャー州で発生した事故以来となっている。

トラムに速度監視システムは難しいのか

ところで、トラムに制限速度オーバーをチェックし、減速させるための速度照査装置を付けることは難しいのだろうか。

これまで、トラムは道路上をほかの自動車などとともにゆっくり走ることが前提で、原則的には自動車と同じ交通法規が適用され、速度制御も運転士の技量のみに頼っていた。しかし今回の事故のように、道路ではない専用軌道を高速で走る場合、やはり何らかの速度制御を行なう信号システムが検討されても不思議なことではない。特に専用軌道区間の長いLRTなどの場合、こういったシステムの必要性は高いといえる。

ひとつの例として、アントワープのプレメトロを挙げることができる。ベルギー北部の町アントワープには、合計13路線のトラムが運行されているが、その中で市内中心部の一部区間は線路を地下化した路下電車方式(プレメトロ)が採用されている。

これは、中心部の狭隘な道路をトラムが走ることで道路の渋滞を招いたため、特に渋滞が酷かった一部区間のみ、線路を地下へ移したものだ。実質的には地下鉄ながら走るのはトラムという興味深いシステムだが、地下区間は見通しが悪く、一瞬のブレーキミスが追突事故を招く恐れがある。

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