「カストロ後」のキューバを襲う変化の荒波 革命の理想を貫いた国はどこへ向かうのか

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むしろ、国内政治よりも、気になるのは米国との関係だ。米国では次期大統領にドナルド・トランプ氏が就くことが決まっているが、「フィデル氏の死で、トランプ氏の対キューバ政策に影響が出る可能性がある」と清野氏は話す。

実業家のトランプ氏はもともと、経済制裁が緩和されたら、キューバのリゾート開発を手がけようとしていたふしがある。選挙キャンペーン中は、1990年代にトランプ氏がキューバのリゾート地に派遣した「視察旅行」が、やり玉にあがった。つまり、トランプ氏はキューバを「投資の機会」ととらえていたのだ。

ところが、選挙戦終盤、大票田フロリダ州でトランプ氏はいきなり「対キューバ強硬姿勢」をぶちあげた。キューバ革命で財産を没収されるなどして、フィデル氏に恨みを持つ、「選挙権を持つキューバ移民」の支持を得るためだった。それが功を奏したのか、トランプ氏は見事にフロリダ州を勝ち抜いた。

キューバ人が抱えるジレンマ

だが、「今は米国に住むキューバ移民の世代もさまざまになり、フィデル氏を憎悪する移民の比率も少なくなった。そもそも、キューバに対して強い政治信条やイデオロギーがないトランプ氏が、強硬路線を貫く“メリット”はない。だから、選挙キャンペーンでは厳しく言ったものの、『フィデルはもういない』ことを言い訳に、キューバへの姿勢を緩和する可能性もある。ただ、強硬姿勢を貫くミット・ロムニー氏を国務長官に起用する案が浮上するなど、側近の人選次第で、対キューバ政策が左右されるだろう」(清野氏)。

トランプ氏の対キューバ政策は極めて予想がつきにくい。が、経済制裁の緩和に向けて動き出した米国が再び、両国の関係を元に戻すようなことがあれば、キューバの将来に少なからず影響がある。

もちろん、キューバの政府も国民も、この国の行方を米国に委ねている訳ではない。だが、これまで革命の志と共にあった国家の誇りと、それだけでは立ち行かない経済状況の狭間で、それぞれが今後のこの国の在り方についてジレンマを抱えているのは確かだ。

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