「パワハラと過重労働」が蔓延する日本の職場 結局ストレスチェックでは見抜けない

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──さらに制度の実施者である一部の産業医の質も不十分だと。

天笠 崇(あまがさ たかし)/1961年生まれ。京都大学医学部大学院社会健康医学系専攻博士後期課程修了。精神保健指定医、産業医、精神科専門医・指導医。過労死・自死相談センター運営委員。(公財)社会医学研究センター代表理事、働くもののいのちと健康を守る東京センター理事長。著書に『成果主義とメンタルヘルス』ほか(撮影:梅谷秀司)

嘱託産業医のうち精神神経専門医は1.8%にすぎない。最近読んだ厚労省の産業医制度のあり方に関する検討会の資料に、「産業医がやりたくないと尻込みしている」という報告が載ってました。今の時代、メンタルの問題を扱わないで産業医といえるのか。メンタル対策で体の病気も減ることが実証されているので、ストレスチェック制度を皮切りに心身を改善する方向に産業医はもちろん、事業者も労働者も関与している皆が取り組んでほしい。そこをいちばん強調したい。よかれと思う取り組みを、アクションを必ず起こしましょうと。

──しかし中にはブラック企業ならぬ、“ブラック産業医”というのもいるそうで。

体調不良で休憩が延びた社員の賃下げを提言した、度重なる査問を苦に自殺未遂した社員の査問継続を許可し自殺を遂行させた嘱託産業医など、聞くとビックリなのがいますよ。また、産業医選任が義務なのにもかかわらずしていない会社も多い。こういう事態に対し労基署はけっこう動いてます。労働者と労基署が同じ方向で頑張るようになってきてるな、とこの数年は思いますね。

ブラック企業は経営も悪化します。過労自殺のあった職場はよほど真摯に経営を見直さないと傾く。事実、僕が労災関連自殺の鑑定書等で関与した後、粉飾や横領、不祥事の見つかった事例が複数あった。ブラックでなくとも、メンタル不全休業者比率高は2年程度のタイムラグで利益率を悪化させる可能性が、国の委託研究データで実証されました。

成果主義のもうひとつの結果か

──先ほど、ハラスメント問題の深刻化という話がありました。

ハラスメントは成果主義のもうひとつの結果、と見ています。人間を機械のように、あたかもパソコンのCPUの性能を測るように見る。常時高効率の機械と同じ結果を求め、ダメだと注意が飛ぶ、叱責が入る。“事柄”にではなく“人格”に攻撃の矛先が向かう。

これまでも、「より力を発揮できる場へ」と助言ぶった退職強要や面談を繰り返し精神的に追い詰める、リストラ対象社員の「追い出し部屋」、出向転籍させた後で「仕事はない」とか、ひどい仕掛けがあった。

そして近年は、実に巧妙な手口のハラスメントが増えています。疲れているようだ、休養したら、と提案される。休んだ後復職したいと申し出たら「まだ十分じゃない」「全快してぜひ戻ってくれ」と時間稼ぎ、そのうち休職期限が切れて退職とか。自己都合退職に追い込むレールを粛々と敷いてるんです。明確な攻撃じゃない、ソフトなパワハラ。

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