安倍外交の「成果」が次々と崩壊し始めている 会談5日後にトランプ氏は「TPP離脱」を宣言

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では、次の大統領に期待ができるのか。韓国では来年12月に大統領選が行われる予定だ。国民の激しい批判を浴びた朴大統領の後継者が、朴氏の政策をそのまま継承するとは考えにくく、新政権下での撤去は期待できそうにない。

そればかりか、朴大統領の失脚で慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」という合意も、果たして守られるのかどうか不透明になってきた。そうなると日本国内から「韓国は合意を破った」という批判が出てくるだろう。

問題は日韓関係だけではない。実はこの合意にも、日本の対中戦略が秘められていた。日本と韓国はそれぞれが米国と同盟関係にある。日米韓三カ国の安全保障政策上の連携は対中国、対北朝鮮政策を考えるうえで重要だ。安倍首相はもともと従軍慰安婦問題について韓国の主張を認めることに批判的だった。10億円の拠出に最後まで抵抗したのも安倍首相だった。しかし、日米韓の連携が中国に対抗するうえで不可欠と判断して譲歩したという経緯がある。

それだけに韓国側の内政の事情とはいえ、日韓合意が反故になりかかっている現実に当惑しているだろう。

フィリピン・ドゥテルテ大統領のしたたかな戦略

南シナ海に関する仲裁裁判所の判決が空文化してしまったのも大きな誤算だ。

7月に出された判決は、中国が主張する南シナ海の広い海域での歴史的権利について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」と全面的に否定しており、フィリピンの完全な勝利だった。尖閣諸島近海での中国公船の領海侵犯などに悩まされている日本政府は積極的にフィリピンを応援し、サンゴ礁の埋め立てなど中国の行為が国際法に違反すると、国際世論に活発に訴え続けてきた。従って判決は安倍首相の思惑通りで、中国が強引に進める海洋進出をけん制できると考えていた。

ところが判決が出る直前の5月に行われたフィリピンの大統領選挙で当選したドゥテルテ氏の登場で思惑は完全に外れてしまった。

仲裁を求めた前大統領のアキノ氏は中国嫌いで知られ、米国との同盟関係を重視して中国に向き合う姿勢を取っていた。これに対しドゥテルテ大統領は大の米国嫌いだ。9月にはオバマ大統領に対し「私は独立国家フィリピンの大統領だ。植民地としての歴史はとっくに終わっている。このプータン・イナ・モ(くそったれ)が。もし奴がフィリピンは人権を無視しているなどという話を持ち出したら会議でののしってやる」と発言し、予定されていたオバマ大統領との会談が中止になった。その後も、行く先々で米国批判を繰り返している。

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