松下幸之助「朝会はこれからこそ必要になる」 経営の神様が問わず語りに語った経営の奥義

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また交代で社員の人が話をする。これもお互いに、ああ、あの人は、ああいう考え方をしているのか、ということもわかるし、またその場を活用して、自分はこういう考えを持っていますと発表することもできる。

このごろは、考え方がさまざまな時代になってきたわね。うん? 価値観多様化の時代というんか? まあ、そういうことになれば、一人ひとりがそれぞれに自分の考え方を持って、そして、それに基づいて行動をする。結構な時代だと言えるわね。それはそれでええけれど、しかし、会社全体の方向に沿って、あるいは会社発展の方向で努力してもらわんといかん。そやろ。そうでなければ、会社として組織をつくる必要もない。

価値観多様化か、そういうばらばらであればあるほど、一方で共通のものが必要だし、また社員の人たちも責任者の考え方とか、いま会社でなにが起こっているのかわかっておらんと困るわけや。

なんか知らんけど、与えられた仕事だけやると。やっておると。そういうことでは、かなわんということになる。昔のように基本の考え方がひとつかふたつだと、むしろ話ししたり、連絡したりせんかて、まあ、だいたいお互いの言うこと、やることはわかるけどな。これからはそうはいかん。とすればやな、朝会とか夕会とかは前近代的であると。そういう考え方をするのはあんまり賢い人ではないな。外国が近代的で、日本がすべて前近代的と言えるんかどうか、わしにはわからんが、大事なことは経営に、あるいは、仕事にどれだけ有効かどうかということや。まあ、経営の実際を知らん人が言う場合は仕方ないけど、経営者が同じように思い考えるとするならば、つまらん経営者やね。経営がほんとうはわかっておらん人やろうな。

朝会でお互いに確認できるのもええわね。

ああ、あの人、見えんけど、休んでおるのかな、もしそうであれば、病気であろうか、大丈夫かな、というふうにな。あの人は元気そうで結構や、あの人は少し元気ないな、あとで声を掛けて励ましてあげよう、ということになる。みんながいろいろな考え方をする、これからの時代は朝会とか夕会とか、あるいはそれに類するものをやらんといかんね。やらんと会社の基本のところで、ばらばらになってしまって、どうにもならんくなるわ。

「なぜ」を説明することが必要

話をもとに戻すけどな、経営者が自分の考え方を社員に浸透させるためには、あとひとつ、なぜ、ということを話さんといかんということやな。
社員に訴える、話をするのにただ要件だけ、結論だけ言うと。言いたいことだけを言うと。そういうことではあかんのや。話をする、訴えるからには、なぜ、自分がそういう話をするのか、なぜ、そういうことを訴えるのかを、キチッと説明せんといかんし、説明できんといかんわな。

説明せんと。そんなことでは社員はわからんわけや。責任者がなぜを説明することによって、その言わんとする全体を理解することができる。責任者はその、なぜが説明できるほどに考えんといかんわな。考えもせんと社員に話をする。考え抜きもせんで訴えるということでは、社員はその責任者についてこんで。きみ、ええか、自分の考えを部下の人たちに伝えようとするならば、燃える思いで訴える、繰り返し訴える、なぜ訴えるのかを説明する、こういう3つのことを忘れたらあかん。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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