トランプ大統領で始まる「リーダーなき世界」 2100年の主要国の経済力を予測してわかった

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この試算では2100年までに人口が大きく増加するアフリカは、1人当たりGDPの米国に対する比率が横ばいにとどまると仮定している。もしも現在の中国のように急速な経済発展を遂げて1人当たりGDPの水準が米国にかなりの速度で近づいていくことになれば、「その他の地域」が世界経済に占める割合が高まるので、米国経済が世界経済に占める割合はさらに低いものになる。

また、21世紀末でも米国の1人当たりGDPは世界最高水準だが、中国やインドといった人口超大国との差は20世紀末に比べても遥かに小さくなると想定している。米国の国民が自分達の負担によって世界の政治・経済を安定化させることに後ろ向きになり、ほかの国々の負担の増加を求めるのは当然のことだ。米国は世界経済の12%程度を占めるに過ぎなくなり、世界経済を安定化させる役割を担うには規模が小さすぎるという状況になる。

規模と豊かさの両面で圧倒的に強い国はなくなる

トランプ氏は米国の利益を優先させる立場から、TPP(環太平洋経済連携協定)に反対してきた。経済のグローバル化で最も大きな利益を得てきたのは米国であり、米国はこれまで世界の貿易自由化を推進してきた。しかし米国の経常収支が大幅な赤字となっていることは、貿易の自由化が米国の負担によって実現してきたというトランプ氏の主張が、まったくの間違いだともいえないことを意味している。世界で最も豊かで経済力がある米国が、様々な形で負担をすることで、世界の経済や政治を安定化させるということは次第に期待できなくなっていくだろう。

第一次世界大戦前の英国や第二次世界大戦後の米国は、世界一の経済大国であると同時に1人当たりの所得でみても世界で最も豊かな国でもあった。しかし、21世紀後半の世界で超経済大国となる中国やインドは、1人当たりの所得でみるとそれほど豊かな国ではない。世界経済が安定することで最も大きな利益を得るのは、世界で最も経済規模が大きい国であるはずだが、そのためにほかの国々に比べて大きな負担をするということは難しくなっていくのではないか。

英国から米国へと世界の中心が移動する過程で、英国は世界経済を安定化する力を失い世界経済は非常に不安定になった。世界経済の重心が米国からアジアへと移動する中で、世界経済は再び不安定な時代を迎える恐れがある。米国の利益第一を掲げるトランプ氏が次期米大統領に当選したことは、21世紀がリーダーのいない世界に突入したことを象徴するできごとだといえるだろう。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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