ヘッジファンドは株を売る機会を狙っている 日本株の上昇余地はあとどれくらいあるのか

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では米当局は現状をどう考えているのだろうか。11月17日、イエレン米FRB(連邦準備理事会)議長は議会証言で、財政刺激策に対して「米経済は完全雇用に近い」、「大規模な需要喚起策が必要なわけではない」と慎重な見方を示した。一方、11月21日、フィッシャー米FRB副議長はニューヨークの講演で、「悪影響なしに政府債務を増やす余地は大きくない」という懸念は正しいとしつつも、財政政策の拡大に期待感を示している。

ということは、財政拡大で金利は当面上昇し続けるのだろうか。ただ、過去20年のドル円の平均騰落率(前年末値比)は年±10%程度にとどまる。足元は米大統領選後の10日間余りで10%超も円安ドル高へと振れている。投機筋からは「一段の円安」との声も聞こえるが、明らかに短期的にドル円はドル高に振れ過ぎている。

テクニカル面では、長期投資家の売買コストとされる52週線109円台も上回ってきた。しかし、長期トレンドを示す52週線自体の傾きが円安(右肩上がり)方向へと転じるためには、52週高値(123円台)を上回る、もしくは2ヵ月程度110円前後でモミあう必要がある。

以上のことを考えると、トランプ次期米大統領の政策運営や方向性は具体的に見えてくる来年1月まで、急ピッチな円安・ドル高の流れもいったんは一服しそうだ。今週は米感謝祭の祝日を控えているため、海外勢が積極的に円売りの持ち高を増やすとは考えにくい。もう一つの長期線となる200日線は106円台で推移している。

日経平均も1万8200~1万8400円で上げ一服も

では、日本株はどうだろうか。円安が進んだことによって、国内企業の輸出採算の改善期待が強まっている。主要企業における下期の想定為替レートは102円程度だ。9月の日銀短観における大企業・製造業の2016年度通期の想定為替レートも108円程度だ。

仮にドル円が110円前後で定着した場合、自動車7社合計の営業利益計画が約3.7兆円であることから、為替差益による押し上げ効果は大きい。また、米長期金利がおよそ1年ぶりの高水準を付け、銀行株や保険株が戻り高値を更新、日本株全体を底上げしている。

ただ、テクニカル面に目を移すと、日本株は短期的に買われ過ぎを示唆するシグナルが散見される。2016年の日経平均株価を振り返ると25日線(短期線)+5%~+6%水準(22日時点では1万8256~1万8430円)に達すると、上げが一服している。現在の価格からの上値余地は限定的との見方も必要だろう。

また、投資主体別売買動向の動向に注目したい。2016年初めに産油国中心に原油安→財政赤字懸念→株売りが加速、海外勢は日本株を計6兆円売り越していた。一方、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行が日本株を計3.5兆円買い越していた。しかし、米大統領選が行われた2016年11月第2週(11月7日~11日)に信託銀行が775億円売り越している。バリュー面を重視する国内の年金基金や機関投資家などの多くは、実は売る機会を探っているようだ。

アベノミクス相場を振り返れば、日本株の株価収益率(PER)は14~16倍で推移している。日経平均株価が1万8000円を上回るとPER16倍に近づき、相対的な割安感は薄れてしまう。

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つい海外勢の売買動向に目を奪われがちだが、上記のように国内勢の潜在的な売り圧力に警戒しておきたい。日経平均株価の長期トレンドを示す200日線(1万6623円:11月22日時点)が右肩上がりに転じたことから、中長期的には需給は改善しているが、短期的にはやはり買われ過ぎだ。年末にかけて主要イベントに目配せをしつつ、いったんの調整に備えておきたい。

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中村 克彦 みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト

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なかむら かつひこ / Katsuhiko Nakamura

IFTA国際検定テクニカルアナリスト(MFTA)、日本テクニカルアナリスト協会(NTAA)評議員。

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