ベルギーが「過激派の巣窟」になった根本原因 首都郊外のモレンベークで起きていること

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――ベルギーはテロによってどう変わったか。

特に変わったことはないと思う。今でも人は外に出て食事をしたり、コンサートに行ったり、生活をエンジョイしている。テロがあったから外に出ないとかそういうことはない。人混みが多いところにいると、ふと「もしかしてテロが今起きたらどうなるか」という思いが心をよぎることはあるが。ただ、街中に兵士がいて警備をしている。それは変わった点だ。

また、電車の中でムスリムを見つけると、ついつい目をやってしまう。見てはいけないと思いながらも。ムスリムの方も私が見ていることを感じ取る。非常に気まずい状態だ。

ベルギーはフランスに似ている

――ムスリムへの対応はどうか。例えばベルギーではフランス同様、ムスリムの女性が顔や体を覆うベール(この場合は、目以外の顔と髪を覆うニカブや目の部分もメッシュの布で覆うブルカ)の公共の場での着用を禁じているが。

この点ではベルギーはフランスに似ている。確かに、学校を含めた公的場所で宗教的な象徴があるものを身に着けないことになっている。

――反移民を掲げる右派政治勢力は?

全体として、ベルギーの政治が大きく右化しているといったことはないと思う。ただ、1990年代に反移民で極右の政党「フラームス・ブロック」(現「フラームス・ベランフ」)が大きく支持を集めたことがある。今でも、移民の比率が高い北部のフランデレン地域では反移民感情が強い傾向がある。

「移民」が政治的にセンシティブなトピックであることは確かだ。2014年、(中道右派)ミシェル政権(2014年~)で難民・移民担当閣外大臣となっているテオ・フランケン氏がモロッコ、コンゴ、アルジェリアからの移民の社会への貢献度に疑問をはさんだことが問題視され、謝罪する一件があった。

8月にはイスラム教のイマーム(イスラム教寺院の導師)の息子が「すべてのキリスト教徒を殺せ」という動画を投稿し、大きな衝撃となった。フランケン大臣はイマームとその息子をベルギーから強制退去させるべきと述べている。ベルギー内に住む移民出身者やムスリムに対する偏見を深める出来事になった。

――パリ・テロの実行犯の数人はベルギー在住のフランス人やベルギーで生まれ育った若者たちだった。全員が移民家庭の出身で、ブリュッセル郊外モレンベークを根城としていた。なぜベルギーか、なぜモレンベークなのか。

モレンベークには移民出身者が多い。パリとブリュッセルのテロで明るみに出たモレンベーク・ネットワークの特徴はそれぞれが互いに知っている仲間だった点だ。兄弟、あるいは近所付き合いがあった。ともに成長し、犯罪行為に手を染めて、同時期に刑務所に入った。同じコミュニティの中にいた。

モレンベークにはベルギーの言葉(公用語はオランダ語の一種フラマン語、フランス語、ドイツ語)を話さなくても生きていける空間がある。自分たちだけの空間だ。こうした空間が存在することを私たちは知っていたし、警察はムスリムのグループ「Sharia4Belgium」(シャリア・フォー・ベルジウム、「ベルギーにシャリア法を」の意味)の存在も知っていた。しかし、このグループが過激化にどこまでかかわっていたかについては十分に認識していなかったと言えると思う。今、容疑者たちの生い立ちを追っている。過激化を防ぐヒントが見つかればと思っている。

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