(第20回)数学大国江戸の日本~地方に広まる和算~(その1)

桜井進

●寺子屋の存在

 江戸時代の特異性は、庶民の数学のレベルの高さにあったといえます。寺子屋で学ぶ風景の絵が多く残されています。そこから読み取れることは、現代の学校や塾とは違った学びの姿です。現在の子どもにとって勉強は「受験」と切り離せません。受験があるなしで、受験科目の違いで勉強の中身、取り組み方が変わってきます。

 江戸時代、今のような受験はありませんでした。年齢別、習熟度別といったような細やかなシステムはなく、幼少から青年までの子どもが一緒になって学んでいました。学ぶ内容も習字、そろばんと一人一人様々です。それらを一人の先生が受け持つのですから、さぞかし多様な寺子屋の風景があったことでしょう。受験制度がない時代、人々は数学を積極的に学んでいたことになります。思い起こせば小学校時代、算数が好きだった人は大勢いたはずです。純粋に数と戯れることを楽しんでいたはずです。今も昔も変わりなかったことです。それが中学、高校と進むにつれて事情が変わってきます。数学が嫌いになる子どもが増えていくではありませんか。数学書『塵劫記』は世代を超えて、江戸の庶民に読まれました。そして、寺子屋で学んだ子どもの中から数学者たちも生まれていったのです。

 いったい江戸と今で何が違ったのでしょうか。それは数学を教える多様な先生の存在にあったと考えられます。当時は軒先に数学塾の看板を出せば、行列ができるほど需要があったといいます。数学に自信がある者なら簡単に教えることができました。大きな都市であれば寺子屋がたくさんあったでしょうが、地方はそうはいきません。和算が地方にもひろがっていったのには今では考えられない教師の存在があったのです。それが「遊歴算家」といわれる数学者です。

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