「銭荒」と、高めの金利を容認する政府 景気・経済観測(中国)

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こうした姿勢から判断して、当面、インターバンク金利はやや高めの水準で推移し、5月以前の低水準に回帰する可能性は低いように思われる。中国人民銀行は金融システム全体の混乱を招かない範囲で、流動性管理の強化を今後も銀行に求めていくとみられる。それゆえ、一部銀行が流動性不足に陥る可能性は残るかもしれない。中国人民銀行も6月25日の声明の中で、重大な突発性の問題が起こった場合には、すぐに報告するようあらためて銀行に求めている。

今後、システミックリスク防止と銀行健全化のための流動性管理強化という2つの目標を、同時に達成できるかどうか。中国人民銀行、中国政府が市場とのコミュニケーションをいかに丁寧かつ適切に行い、パニックの再燃を防げるかどうかがカギだ。

成長率鈍化は容認も

では今回の「銭荒」は、中国の景気にどのような影響を与える可能性が高いだろうか。

資金調達が難しくなることで、投資の伸びが鈍化することが予想される。ブルームバーグによると、中国の6月の起債額は2012年1月以来、最も少ない額となるようだ。金利上昇により少なくとも22社が起債を中止または延期したためである。「理財商品」に対する管理強化と相まって、投資の下押し圧力となることは必至だろう。中国政府は経済の持続的発展のために成長率の鈍化を容認したと評価できそうだ。

ただしその過程で、暗黙の政府保証があるとみなされやすい国有企業に、低利の資金が流れやすい状況が続くとすれば問題だ。民間企業、とりわけ中小企業が資金難にあえぐことのないようにしなければならない。景気下押し圧力下で「国進民退」が起き、生産性改善に逆行する動きが出ないよう、習近平政権が速やかに手を打てるかが試されている。

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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