水野和夫氏「トランプ後の世界は中世に回帰」 アメリカは自らグローバル化に幕を引いた

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ヨーロッパへの脅威は、いつも東から来ます。北は北極海、南はサハラ砂漠、西は大西洋といった天然の要塞で守られているのですが、東は無防備なのです。EUの中で人の移動を自由にした結果、「陸の国」である東欧や中東からの移民流入に対して、「海の国」イギリスは自国の秩序が守れなくなったので、EU離脱を選んだのです。

一方、アメリカにおけるグローバリゼーションの幕引きは、オバマ大統領から始まったといえます。クリントン、ブッシュ大統領が続けてきたグローバリゼーションは、イスラームの反撃という形で世界の平和秩序を破壊するようになりました。

アメリカ国民がトランプを支持するのは必然だった

オバマ大統領は、このことを受けて、アメリカが「世界の警察」であることを辞めると宣言したのです。しかし、平和秩序を保たないものが、経済秩序だけを保つことはできません。あの発言から、グローバリゼーションの終わりが始まりました。

そして2年前、ピケティ氏の「1%対99%の格差」の言説は、グローバリゼーションを通して貧困に苦しむ多くの人々に「反エスタブリッシュメント(反既存体制)」という目標を与えました。現状を維持しようとするクリントン氏と、反資本主義、孤立主義など、この反エスタブリッシュメントを支持する人々の心に響くフレーズを連呼したトランプ氏が戦った大統領選において、国民がどちらを選択するかは、明白でした。

そして、トランプ氏が大統領として選挙公約を守るとすれば、アメリカは自らの手で推進してきたグローバリゼーションに幕を引くことになるのです。

ドイツの法学者であり、政治学者でもあるカール・シュミットは、世界史は「陸と海との闘い」であると定義しました。市場を通じて資本を蒐集するのが「海の国」であるのに対して、「陸の国」は領土拡大を通じて富を蒐集します。どちらも蒐集の目的は、社会秩序の維持です。

フランク王国に起源をもつヨーロッパは「陸の国」ですが、近代を作ったのはオランダ、イギリス、アメリカといずれも「海の国」です。「陸と海との闘い」において、近代とは「海の国」の勝利の時代でした。

しかし、今はそれが揺らいでいます。「海の国」がもっとも恐れていたこと、すなわち世界最大の大陸であるユーラシアの一体化が現実味を帯びてきたのです。

そしてまさに、米大統領選においても、トランプが大統領に就任したことによって、TPPをはじめとしたグローバリゼーションは収斂に向かい始めました。「海の国」である英米が、グローバリゼーションを推進することにより、地球が1つになったかに見えたまさにその瞬間、「陸の時代」へと逆向きの力が作動し始めたというわけです。これも中世への回帰の流れの1つと言えます。

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