欧州の「貨物列車」はこんなに進んでいる 衰退が続いた日本とは大きな違いが

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イノトランスには、機関車だけでなく貨車の新製品も多数出品された。貨車については、特に目新しい技術があるわけではないが、過酷な使用環境で長時間運行されることから代替需要は多く、貨車専門のメーカーもある。

例えば、スロバキアのTatravagonkaという貨車専業メーカーは、創業100年の老舗だ。これまで製造した貨車の累計は13万両、単純計算として100で割ると年産1300両にのぼり、それをすべて連結すれば総延長1800キロという途方もない長さとなる。

ドイツWBNの新車輸送用車運車。自動車メーカーは鉄道沿線に工場を設けている会社も多く、工場内へ直結する引き込み線を使って直接積み込まれるところも多い

このほか、日本人にとっては珍しい存在となってしまった自動車の新車輸送用車運車も展示されていた。日本では20年近く前に車運車による新車輸送は全廃されてしまったが、欧州では現在も自動車輸送の大半を担っており、自動車工場には出荷用の専用線が引き込まれ、貨物列車で港などへ輸送されている。

一見地味な存在ではあるが、鉄道による物流を担い、経済活動を陰で支えているのが貨車だ。そして鉄道貨物輸送の盛んな地域では、貨車を専門で作り続けるメーカーも存在しているのだ。

日本の鉄道貨物は現状維持が精一杯?

このように新型車両の開発や貨車の大量生産が行われている欧州の鉄道貨物事情は、日本の状況とは大きく異なっている。

JR貨物の2014年度のデータを見ると、年間輸送量3031万トンのうち71%にあたる2154万トンがコンテナ輸送で、残りの29%がコンテナではなく、貨車を1両単位で貸し切って輸送する、いわゆる「車扱(しゃあつかい)貨物」だ。過去数年は年間輸送量もほぼ横ばいとなっているが、JRが発足した1987年当時の輸送量はコンテナが25%、車扱貨物が75%で、この30年で完全に逆転した。

これはコンテナ輸送への単純な移行ではない。2014年度の年間輸送量は、1987年当時の5627万トンと比べると半分近くにまで落ち込んでおり、車扱貨物に限れば876万トンと、5分の1近くにまで減少している。国内景気の長期的な落ち込みに加え、トラック輸送への転換が主な理由だ。日本の物流の大半は、高速道路網によるトラック輸送が支えているのが現状だ。

だが、交通渋滞による環境悪化やドライバーの労働時間、また輸送力などを考慮した場合、トラックのみではなく鉄道もリンクさせた輸送形態が本来は理想的だ。例えばスイスやオーストリアでは、同国を通過するだけの大型トレーラーの通行を制限し、国境でトラックごと貨車へ載せて、同国内は列車で通過させる「ピギーバック輸送」を行なっている。

ピギーバック輸送は日本でも国鉄時代末期に導入された。だが、もともと欧米諸国と比較して線路幅が狭く、建築限界(列車がトンネルや橋などの構造物に接触しない限界の大きさ)も小さいため、積載できるトラックの大きさや形が大幅に制限されるというネックがあった。このため、普及することなく2000年には廃止されてしまった。

こうした構造上の問題が、日本の鉄道貨物輸送の足かせとなっている点は否めない。残念ながら、現状ではコンテナ列車による現在の貨物輸送体系を維持していく以外の方法は難しいのが実情だろう。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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