フランスは人種差別が蔓延する国に変貌した 首相によるトランプ的発言も問題にならない

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リュパブリック広場で国歌を歌う若者たち(写真はすべて筆者撮影)
ちょうど1年前に発生した、イスラム過激派に影響を受けた青年たちによるパリ同時多発テロから1年。11月13日、130人の犠牲者を追悼するイベントが市内数カ所で開催され、フランス共和政のシンボルとなるリュパブリック広場では集まった市民がロウソクに火を灯しながら、今も続く悲しみを共有した。
フランス全体が「一つになった」ように見えた日だったが、人口の約10%を占めるイスラム教徒の市民に対する差別や偏見が強くなったともいわれている。
移民が多く住むパリ郊外サン・ドニの市会議員マジド・メッサオダン氏は、フランスで生まれ育った。両親はアルジェリアからの移民。2008年に市会議員になり、2年前からイスラムフォビア(イスラム恐怖症)を含めた差別を解消するためのプロジェクトを担当している。同氏は「フランスの政治家のイスラム教徒に対する発言は、ドナルド・トランプ次期米大統領の人種差別的暴言にも匹敵する」と指摘する。

さらに強まったイスラムフォビア

――11月13日のパリ同時多発テロはサン・ドニにある多目的スタジアム「スタッド・ドゥ・フランス」で発生した。続いて、市内の複数のレストランやバタクラン劇場でテロが起きた。そのとき何をしていたか。

あれは金曜日の夜だった。 スタジアム内で行われたサッカーの試合をテレビで観戦していた。私の家はスタジアムのすぐ近くだ。信じられなかった。その後、どんどん死者の数が増えていった。何もできない無力感でいっぱいだった。

同時にすぐ思ったのが、イスラム教徒が実行犯だったら、私のようなイスラム教徒の市民やアラブ系市民(フランスのイスラム教徒は大部分がアラブ系)にとって、非常に生きにくい状況になるのでは、ということ。実際、イスラムフォビア(イスラム恐怖症)がさらに強くなったと思う。

メディア報道を見ても、政治家の発言を聞いてもイスラムフォビアに満ちている。過激派ジハディストとイスラム教徒の市民を同じグループに入れている。「イスラム教徒=疑わしい人物」という発想だ。

――テロの直後、オランド大統領は「テロとの戦争」を宣言し、イスラム過激派組織イスラム国(IS)掃討のため、シリアの空爆を強化した。国家非常事態措置は今も続く。どう見ていたか。

戦争では物事は解決できない。そもそも、なぜISが生まれたのかを解明できていない。シリアの空爆を強化したものの、欧州の若者たちがISのシンパとなってシリアに向かったり、欧州でテロを起こさないようにするための手段をほとんど講じていない。

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