「ガンダム」は、歴史を深く学ぶヒントになる 安彦良和総監督が語る現実世界との関連性

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シャアがガルマを英雄に仕立て上げたのもザビ家への復讐心から ©創通・サンライズ

――デギン(ザビ家の頭領)のガルマ(ザビ家の4男)への溺愛ぶりに、ギレン(ザビ家の長男)とキシリア(ザビ家の長女)が互いに顔を見合わせたように見えました。冷酷さだけではない親子や家族の関係が垣間見えたのですが、演出の狙いはなんでしょうか。

最終的にギレンが父デギンを殺して、キシリアが兄ギレンを殺すという結末を知っている人は、「えっ、あいつらそんなに仲いいの?」と思うでしょうね。あの時点では、お互いにアイコンタクトをする程度の心のつながりはあったということです。

――キシリアが肌を露わにしたドレスを着て男性とダンスをするシーンが出てきます。彼女の怜悧な性格からすると、相手を油断させる作戦ですか。それとも女性らしい一面もあるのですか。

キシリアは男兄弟の中で育って、あまり女らしさを見せる場面がありませんが、「私だって女なのよ」という気持ちは彼女の中にあるのでしょう。口紅だって塗りたいとか。ダンスも本当に楽しんでいたと思います。でも、その後で拳銃の引き金を引かせる。「怖いなあ、この女」と感じてもらえたらと。

ランバ・ラルはシャアに気づいたか?

――ミノフスキー博士(モビルスーツの生みの親)はなぜジオンを脱出して地球連邦に亡命しようと思ったのですか。

直接的には連邦の引き抜きとして描いていますが、身の危険を感じて逃亡するとか、イデオロギー的にジオンに加担したくないとか、そういった心理も念頭に置いています。自分がジオンでモビルスーツという悪魔の兵器を作ってしまった結果、戦力バランスが一気にジオンに傾く。自分が連邦でもモビルスーツを開発すれば拮抗状態を取り戻して最悪の事態は防げる、そんな思惑もあったかもしれません。

――クライマックスのモビルスーツ戦ではランバ・ラル(幼少時のシャアを知るジオンの武将)とシャアがチームを組んでいます。作戦実行前にランバ・ラルはシャアに会っているはずですよね。

そうでしょうね。

――そのときにランバ・ラルはシャアの正体に気づかなかったのですか。

安彦良和(やすひこ よしかず)/1947年生まれ。弘前大学中退。アニメーターとして「宇宙戦艦ヤマト」などに参加。テレビアニメ「機動戦士ガンダム」ではキャラクターデザイン、作画監督を務めた(撮影:梅谷秀司)

シャアは絶対にしっぽをつかませませんよ。そういう男です。でも、正体がばれたら、そこで話が止まってしまいますから。そこは「お約束」ということで。

――モビルスーツ戦ではジオン軍の圧倒的な強さに驚かされます。

シャア、ランバ・ラル、のちの黒い三連星(3人のエースパイロットで構成される部隊)がチームを組んでいます。ジオン最強の5人が相手です。モビルスーツの数で勝る連邦軍が「たった5台か」とたかをくくっていましたが、勝ち目はありません。

――この後、ルウム編が終わるとファーストガンダムの冒頭につながります。そうしたら、あらためてファーストを映像化してみたいと思いますか。

それは僕の年齢とかコンディションとかいろいろありますが、ここまできたらやってみたいですね。分量が半端じゃないですけどね。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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