自治体合併で歪められる日本の地名 地名は歴史文化遺産 許されぬ破壊と蹂躙

自治体合併で歪められる日本の地名 地名は歴史文化遺産 許されぬ破壊と蹂躙

わが国の最近の子どもの名には、奇をてらったものが多い。一方、欧米では、人名は歴史的なものと考えられており、紀元前からあまり変わっていない。ジョン、ピーター、アブラハム、メアリーなど、聖書に登場する名が今もバリバリの現役だ。

人名だけでなく、日本人の新しい言葉好きは異様なほどで、平気で由緒のある言葉を捨て去って顧みない問題は、従来から指摘されてきた。

人名や施設名くらいなら、命名者の教養レベルが疑われるだけで、まだ影響は小さい。問題は地名(地方自治体の名称)である。

1999年4月に始まったいわゆる平成の大合併で、全国の市町村数は大きく減少した。大合併が始まる直前に3232だった市町村数は、2008年11月1日までには1784に減る。この結果、全国に600近くの新しい市町村が生まれている。当然、この合併自治体には新たな命名が行われた。

市町村合併は、国の財政的、行政的な要請から行われたもので、それ自体、さまざまな問題があるが、今は論じない。今回問題にするのは、歴史的、文化的に価値ある地名が消え、問題のある地名が続々と生まれていることだ。そこで、大合併以前も含め、実態を見ていこう。

問題の第一は、幼稚な仮名書き地名が増えていることである。さいたま市(埼玉県)、ひたちなか市(茨城県)、かほく市(石川県)、あさぎり町(熊本県)、いの町(高知県)など数え上げればきりがない。

たとえば、ひたちなか市は漢字で書けば常陸那珂だが、「常陸」も「那珂」も難しいとして仮名書きを採用したものと思われる。

平仮名市名の根底には、“親しみやすさ”を過剰に重視する風潮があるが、逆に、難読地名ほど歴史的ないわれがある場合が多い。事実、市内の那珂湊天満宮は鎌倉時代以来の歴史があり、江戸時代には、水戸光圀が祭礼の形式を定めている。

ちなみにさいたま市には、万葉集にも登場する行田市の地名「埼玉(さきたま)」を横取りして使っているという問題もあり、非常に疑問が多い市名だ。

一部地域が旧国名を独占

第二は、著名な広域地名(多いのは旧国名)の越権的な独占である。たとえば静岡県伊豆市。修善寺町、天城湯ヶ島町など田方郡南部4町の合併によって誕生した。伊豆とは天武天皇9(680)年、駿河国から田方郡と賀茂郡の2郡を分離して設けられた国名である。これを伊豆国の一部である田方郡の、そのまた一部にすぎない自治体が越権的に独占してしまった。本来は「南田方市」とでもすべきところを、知名度の高い伊豆を独占しているのだ。しかも田方郡北部には「伊豆の国市」という市名も生まれていて、わかりにくいこと甚だしい。これは伊豆市側が早いもの勝ち戦略を取った結果だ。田方郡北部は出遅れたのだろう。しかし、いずれにせよ、両市とも「伊豆」を独占しようというのは越権であると言わねばならない。

同様な例としては、山梨県の塩山市、勝沼町、大和村が合併した甲州市がある。山梨県には、ほかにも甲斐市と山梨市が広域地名を使用しており、由緒ある県庁所在地、甲府市にも名が似ている。山梨県に詳しくない人にとっては紛らわしい。

ただ、こうした命名が許される場合もある。それは合併自治体の範囲が旧国名の範囲と一致していたり、旧国名の発祥の地を含んでいたり、旧国名と同じ名称の地域を含んでいる場合だ。佐渡市、壱岐市、対馬市、伊予市、阿波市などがこれに当てはまる。それ以外は越権的であり、許されざる命名といえよう。

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