トランプ政権の威力をあなどってはいけない 「良いトランプ、悪いトランプ」を考える

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カギを握るのは、トランプ氏と議会共和党との関係だ。トランプ氏が公約を実現させるためには、多くの場合において議会での立法作業が必要になる。大統領選挙と同日に投票が行われた議会選挙では、共和党が上下両院で多数党の座を維持している。議会共和党には、トランプ氏の「良い政策」を円滑に実現し、「悪い公約」をバランスのとれた内容に修正する役割が期待される。

移民こそが米国経済の強み

注目されるのは、移民政策の行方である。

移民政策は、「悪い政策」の典型だ。不法移民の強制送還等、トランプ氏は極めて厳格な移民政策を主張してきた。米国経済にとって、移民は重要な労働者である。労働人口の増加は米国経済の強みであり、移民を引き付ける魅力を失うことは大きな痛手である。また、メキシコとの国境に不法移民を防ぐ「壁」を築くという提案は、米国とメキシコとの関係を決定的に悪化させかねない。

共和党のなかには、トランプ流の厳格な移民対策に懐疑的な議員が少なくない。経済面での悪影響もさることながら、政治的な懸念があるからだ。米国では、移民の中核をなすヒスパニックの人口が増加している。選挙における重要性は増す一方である。共和党が厳格な移民政策に傾斜していけば、今後の選挙は勝ち難くなる。

せめぎあいは始まっている。例えば、「壁」を築くというトランプ氏の公約である。トランプ氏にとってはトレードマークともいうべき公約であり、こだわりはあるだろう。これに対して議会共和党は、物理的な「壁」を築くかどうかはともかく、不法移民の流入を厳格に阻止する仕組みを構築し、実質的な意味での「壁」とする方針を示唆している。

トランプ氏の勝利が予想外だっただけに、今後の政策の展開については、誰もが手探りの状態にある。トランプ氏自身も例外ではないだろう。議会共和党にしても、上下両院での多数党維持すら確実ではなかったのが現実であり、トランプ氏への対応を考えるのはこれからだ。

市場が描いた「良いストーリー」が実現するのか、予断を持たずに見守る必要がある。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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