「南シナ海」はASEANを曲がり角に追い込んだ 50周年を機に、全会一致原則の修正が必要だ

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第一に、ASEAN憲章に関する助言を行う賢人会議がかつて提言したように、多数決による意思決定ルールを導入すべきだ。こうしたルールはすでに欧州連合などで採用されている。

東南アジア地域での前例もある。同地域の非核化目的で1995年調印された東南アジア非核兵器地帯条約では、全会一致が不可能な場合、3分の2の同意が得られれば、意思決定が可能だとされている。

もちろんすべてを多数決にしなくてもよい。事案に応じて二つの手法を使い分ければよいのだ。

たとえば主権や領土問題などに影響するケースは全会一致の道を探るべきだが、地域の安全保障などに影響する事案については、多数決とする余地を残す必要がある。

もう一つは新たな組織づくりだ。たとえば「南シナ海問題委員会」などである。こうした組織を設置すれば、全体の会合に先立って、より関係の深い国同士で問題意識を共有できる。

中国と協調や対話を

以上の策を実現できなければ、志を同じくする諸国は、ASEAN地域フォーラムや東アジア首脳会議(EAS)のような、ASEANよりも地域限定型の機関への傾斜を強めるだろう。将来はこうした組織が、安全保障面でASEANを補完するのかもしれない。 

とはいえ、ASEANの全会一致原則は放棄されるべきではない。南シナ海問題を最善の形で解決するため、ASEAN加盟国は中国とも、信頼構築や協調、対話を進めるべきだ。

一方で中国は、ASEAN加盟国が抱いている安全保障上の懸念にもっと敏感になり、南シナ海を緊張と対立の海ではなく、平和と繁栄の楽園にするよう行動すべきだ。
 

週刊東洋経済11月19日号

レ・ホン・ヒエップ 東南アジア研究所(ISAES)客員研究員

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レ・ホン・ヒエップ / Le Hong Hiep

ベトナム出身。同国外務省での勤務経験がある

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