列車で「ゴジラ」を倒すことは本当に可能か 「シン・ゴジラ」から考える無人自動運転

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ただ、電車には4段階程度に分けられた、加速の指令さえ与えれば、その段階で出しうる最高速度まで自動的に加速してゆく機能も一般的に備わっている。幸い、東京駅の神田側はほぼ直線だ。デッドマン装置(運転士が急病などで運転不能に陥った時、非常ブレーキをかける装置)を切り、いきなりマスコン(加速の指令を出すハンドル)を手動で入れて、すぐ運転士が飛び降りて脱出する方が簡単なようにも思える。

東京駅付近を走る電車。線路周辺には多くの架線やケーブルが張られている(撮影:小佐野景寿)

また、レールの他に、走るためには電力を供給する架線が必要な電車は、実はその架線が弱点ともなりうる。現実社会でも、強風時の飛来物などによって架線に障害が生じ、運行不能となるような事態が時に起こる。

ましてや相手は全長100メートルを超える「巨大不明生物」である。架線など糸くず以下の存在だ。少し身体を動かしただけで切断されるだろう(映画内では、線路や架線を大至急、修復したという台詞もある)。

本来、こういう目的(?)には、エネルギー源を自ら抱えた蒸気機関車やディーゼルカー、ディーゼル機関車の方が適しているのだが、さすがに東京近郊に存在する数はごく少ない。わずかに入換用の小馬力のディーゼル機関車がある程度だから、数千両もある電車を、無理を承知で投入したのだろう。

走行中に切り離して突っ込ませる方法も

もし、架線切断を怖れるとしたら・・・。爆薬を積んだ電車を別の電車や機関車で後押しして加速させ、一定の速度に達したら切り離し、あとは惰行(モーターへの電流を切り慣性だけで走行する、一般的な走行方法)でゴジラに突っ込ませる方法も、一考の余地があるだろう。映画内でも「切り離し完了!」との台詞があった。

走行中に列車の連結器を切り離すとは、すごい離れ業のようにも思える。けれども、蒸気機関車の時代から、急勾配区間における補機(後押しをする補助機関車)を停車することなく切り離す作業は、一般的に行われていた。国内では2002年まで、山陽本線の八本松駅(広島県)で実施されていたほどである。

こうやって、現実と照らし合わせて、特撮作品の世界を想像するのも楽しい。見終わった後、あれこれと脳内で考えさせられる作品こそ、良質なエンターテインメントだと思う。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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