くら寿司が惨敗した「牛丼」に再挑戦するワケ あの専業チェーンにも勝てるこれだけの根拠

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並み居る強豪から、思惑通り顧客を奪えるのか。苦戦も想定されるが、この見方に対し、くらコーポの幹部は「牛丼を単品で展開するわけではない」と、まるで意に介さない様子。根拠は商品の値付けを見れば理解できる。税込み399円は、大手牛丼チェーンよりも高い値段設定であり、本気で市場シェアを奪いにいく価格ではない。一方で、「サイドメニューの中では、牛丼の利益率は比較的低い」(同幹部)と、十分な採算を確保できる価格でもない。

つまり、くら寿司は単品勝負で顧客奪取や高収益を狙うのではない、ということ。あくまで回転寿司を柱に据えたうえで、牛丼チェーンにはない、ケーキなどのデザート、コーヒーやシャリコーラなどの飲料といった、サイドメニューの豊富さを訴求していく。その「総合力」で新しい顧客を呼び込み、トータルの客単価を上げる狙いであろう。

そもそもくら寿司のサイドメニューは、「安くておいしいだけでは飽きられる」との田中社長の信念に沿って開発されてきた。今回の牛丼は斬新でインパクトがあるものの、これまで続いてきた品揃え強化の一環で、くらコーポ全体の成長戦略に沿った商品というわけである。

過去最高益を牽引したのはサイドメニュー 

新規投資した大阪府貝塚市にある自社最大規模の工場。鮮魚店や店舗も併設している(記者撮影)

順調に業容を拡充してきたくらコーポは、目下業績も絶好調だ。2016年10月期は売上高1100億円で、営業利益60.8億円、純利益41.6億円。純利益は過去最高を更新すると会社は見込む。業績を牽引しているのは利益率の高いサイドメニューで、現在は売上高の約3割を占める。業績は会社計画を上回る勢いで推移している。

むろんサイドメニューだけでなく、寿司ネタの強化にも力を注ぐ。10月から、シイラやサゴシ、ボラなど、産地直送の珍しい魚を提供する「天然魚プロジェクト」を本格的に始動した。プロジェクトの本格化に伴い、大坂府貝塚市の4500坪の敷地に同社最大規模の大型工場と、本格的な鮮魚店、そして「無添 くら寿司」の店舗を開設。週末には駐車場が満杯になるほど、顧客の関心は高いようだ。

牛丼を超えた、「牛丼」の販売目標は3カ月で100万食。2015年7月に発売した「シャリカレー」が3カ月で100万食を突破したことを考慮すると、今回の目標もハードルは高くないように見える。次々にサイドメニューで話題の材料を提供する一方、本業の寿司ネタでも投資を惜しまない。新たな武器を手に入れたくら寿司は、快進撃を続けることができるか。外食業界の風雲児に注目が集まる。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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