スプツニ子!的、「盛大な失敗」のススメ 新世代リーダー スプツニ子! アーティスト 

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では、何をもってアーティストたりうるのか。それはオーディエンスに対して「今まで知らなかった世界を提示する」「新しい発見を促す」ことだ。もともとアートにはそういう側面がある。

私にとってもアートは、日常の常識やロジックから逃れられる場所だった。両親が数学の教授、祖父が物理学の教授という家庭に育ち、進学校のアメリカンスクールに通っていた私は、勉強して大学に行って、就職するのが当然だと思っていた。世の中は常識的に、ロジカルに進んでいるように思われた。ところが美術館に行くと、そこは“普通”のものがない、ロジックが崩れた世界だった。「こういう考え方があるんだ」「こんな見方があったんだ」という体験をすることができた。

ちなみに、その後私は英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アート大学院(RCA)に進学することになるのだが、入試にはデッサンの試験などは皆無であり、私はアイディア5つで入学を許された。彼らも生徒をスペシャリストにしようなどとはまったく思っていないのだ。

まずは、常識を疑う

では、オーディエンスに新しい発見を促すためにはどうすればいいか。私の場合、その1つのアプローチは「常識を疑う」ことである。

私は作品づくりにおいて「こんなメッセージを伝えたい」と考えることはほとんどない。何を思い、感じるのかはその人次第である。私がしていることは、ステレオタイプな常識や「~っぽい」といわれるものを、「それは本当だろうか」「そのルールを崩すと面白いのではないか」と疑い、崩しにかかることだけだ。

たとえば《カラスボット☆ジェニー》という作品は、人間はテクノロジーで自然を破壊しているイメージがあるけれど、それは本当なのか、テクノロジーで自然と人間が近づくのではないかと考えてつくった。

《生理マシーン、タカシの場合。》(2010年)(c)Sputniko!

《生理マシーン、タカシの場合。》は、女性の生理は本当に必要なものなのか、テクノロジーで生理はなくせるのではないかという疑問から創作が始まった。

新しいものを生み出すためには、まず常識を疑うというこのアプローチは、数学者である両親の影響を大きく受けている。既存のルール、考え方、アプローチを疑わないと新しい理論には至らないことを、彼らは小さい頃から私に教えてくれた。本当に正しいのか、もっと検証してみよう、と何事に対しても疑うことから新しいものは生まれるのだ。

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