白熱教室:灘高の英語授業はこうなっている 日本の英語教育を変えるキーパーソン  木村達哉(上)

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通訳学校で苦手のリスニングを強化

このままでは英語教員としての存在意義が、ただの受験屋さんで終わってしまう。そうではなくて、あいつらをちゃんと聞けるように、しゃべれるようにしてやらないとダメだと思いました。

ここでちゃんと勉強しないと、今後、ずっとリスニングができないんじゃないか。英語がしゃべれないまま、しゃべれるふりして英語教員を終えるような気がしたんです。

生徒は僕がリスニングできて、しゃべれると思っていました。「先生、僕リスニングできないんですよ〜」と言われたら、「こんだけ問題集やったらできるやろうが〜」と答えながら、心の中では「いや、オレもやねん」とつぶやいていました。「どうしたらできるようになりますか?」と聞かれて、「オレが知りたいわぁ」と心の中で答えていました。

英語を学びたい意欲が自分史上最も高かったときでしたね。そこで、通訳養成学校に行くことにしたのです。でもその頃、おやじの小さな会社が倒産して、借金6000万円の肩代わりをしなければならず、金銭的な余裕がなかった。だから、通訳養成学校に体験入学を繰り返す作戦を取りました。梅田、神戸、京都、新大阪へと3日ずつ行きました。まねしたい人、1校3日が限度ですからね(笑)。

そこでこうやるんだという勉強法を通訳養成の先生に習って、あとは自分で実践していきました。習ったことは、それまでの自分の教え方とは全然違うもので、「なるほど、オレのは受験英語やなぁ」と思いました。

そこからガラっと教え方を変えました。今、生徒たちにやっているのは、通訳養成学校への4回の体験入学で目にしたものを、自分なりに学校用にトランスフォームした授業です。

体験入学したのが34歳のとき。そこからの3年間は病んだように、人生であんなに勉強したのは初めてというぐらいリスニングのトレーニングをしました。僕は海外留学経験がまったくないですし、近くに外国人がいるわけでもない。英語を日常的にしゃべるという環境にはありませんでしたが、今は生徒を連れて海外に行っても、普通にしゃべれる程度にはなりました。

僕がやっているのは灘の生徒たち相手にやっている方法です。それをほかの高校の生徒にそのまま使えるかどうかはわかりません。中にはこのままでは使えないという部分もあるかもしれないので、各自でカスタマイズしていただければと思います。

英語科の教員は偏差値マシーンであってはならないと思うのです。尖閣諸島や北方領土の問題とか、今、いろいろな問題が起こっていますが、おそらくわれわれの世代では解決できないでしょう。今、僕らが教えている世代、あるいはその次の世代にまで持ち越しになるかもしれない。そんな中、英語がこんなにもしゃべれない生徒を、「東大に何人入れたぜ!」という価値観で指導し続けるのは極めて危険だという気がしています。

だから、僕は普段「東大に入れるように頑張れよ」というようなことは言いません。むしろ世界平和に貢献する人材を輩出できればいいなと思っています。

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