限界説の払拭なるか?アップルの次の一手 ネットラジオ参入を発表。競合追撃へ態勢を整える

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基調講演で訴えていたこと

音楽配信トップのアップルとしても、この流れを座して見ているわけにはいかない。従来のダウンロード型のアイチューンズストアと共食いになってしまう可能性はあるが、ラジオで気に入った曲はストアで買える仕組みを整えて、ライバルを追撃する。

今回の基調講演で、アップルが繰り返し訴えたのが「Designed by Apple in California」というキャッチフレーズだ。これは同社の製品に書かれているお決まりの言葉ではあるのだが、自社が持っているデザイン上の強みをあらためてアピールする目的とみられる。

新しく発表されたアイフォーン、アイパッド向け基本ソフト(OS)「iOS7」では、デザインを平面的でシンプルな印象のものに大幅刷新する。

背景には、デザイン担当上級副社長のジョナサン・アイブ氏の権限が拡大し、ユーザーインターフェースなどまで手掛けることになったという社内事情がある。アップルとしては、見た目と操作性の両面でデザイン力を発揮することによって、ハードウエアでは差別化が難しくなっているスマートフォンやタブレットでの強みを維持したい、という考えが見えてくる。

実際、デモンストレーションされたiOS7の機能は、グーグルのアンドロイドや他社のアプリのよい部分を取り入れたところが目立つものの、見た目や操作の一貫性では一線を画している。

ハードとソフトの両面でデザインの価値をアピールし直すことは、デザイン性を武器とするアップルにとって当然のことであり、最も確度の高い戦略でもある。iOS7やパソコン向け新OS「OS X マーベリクス」は省電力性能もアピールされた。その点も、技術とデザインの一貫性が生かされた部分だ。

また、今年末に発売を予定しているプロ向けパソコンであるマックプロは、すべてを米国内で生産するとも強調した。これには、アップル製品は中国生産が多く、米国内に利益をもたらしていない、との批判をかわすための狙いがありそうだ。

ひととおりの対策を打ち出したものの、サプライズは少なかった。秋以降の新製品発表への期待はますます高まっていきそうだ。

週刊東洋経済2013年6月22日号

西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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