ヒラリーが土壇場で大苦戦する「3つの理由」 実は問題はメールだけではなかった

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前出のモリス氏によれば、実はそれ以前からFBI内にクリントン財団の癒着を捜査しているチームがあったが、司法省は強引に捜査を終了させ、反発した複数のFBIのスタッフが辞職に至ったという。

いずれにしても、今のアメリカには「イノセンス」があるのかわからない。この場合のイノセンスとは、潔白・真実というよりも、真実を伝えようとする意思。これまでの機能への信頼感だ。

大統領選の後に「二極化の本番」がやってくる

今回の大統領選では、ウィキリークスやアノニマスのような「ハッカー集団」がジャーナリストの役割を担い、本来であればジャーナリズムを担うはずの主要メデイアはハッカーのようなバイアス(煽動家)を担当している。まさに悲劇的である。

どちらが嫌われているかを競う異常な選挙戦になった根本要因の一つには、「どちらが勝っても、次の大統領はオバマより13歳以上も老けてしまう」という厳然たる現実がある。これはオバマのチェンジに期待した若い世代には失望である。

そこで調べてみると、過去大統領が13歳以上老けてしまうケースは3回あった。最初はハリソン大統領(第9代大統領。1841年に就任)。この人は就任演説で風邪を引き、そのままわずか約1カ月で亡くなってしまったので除外するとして、後の2回では、その後アメリカは劇的に変わったといえる。

まずブキャナン大統領(在任期間1857年-1861年)。この人は歴代のアメリカ大統領で最も評価の低い人である。評価が低い理由は、奴隷問題などで分裂が始まっていた米国に対し、何も出来なかったことが挙げられる。彼は民主党出身者であり、優秀な弁護士だった。上院も経験し、68歳での就任だったが、彼の時代にノースカロライナ州が合衆国を離脱。次の大統領に奴隷解放を主張するリンカーンが就任すると、南部は別の大統領を立て、結局南北戦争に突入した。

そして、もう一人はわれわれも知っているレーガン大統領だ(第40代大統領、在任期間1981-1989年)。カーター大統領から15歳も年上で70歳での就任だった。投票日の1週間前までは、現職のカーター大統領に8ポイントもリードされながら、「強いアメリカ」を訴えてひっくり返した。このレーガンの時代に冷戦に勝利し、ブッシュを挟んでアメリカの一国支配が完成したことからも、評価は高い。

当然ながら、ヒラリーもトランプも、レーガンになりたいところである。だが、どちらが勝っても、今の米国の分裂の状況は、前者のブキャナン大統領のころに近い。そんな中で、IBD/TIPPの支持率調査においてトランプは再びヒラリーと並んだ。明らかに勢いはトランプにあるが、その勢いを止めようと、現職のオバマ大統領が必死に飛び回っている。

ヒラリー本人では若い人をこれ以上呼び込めない。ならばミレニアルに絶大な人気を誇るオバマが出るしかない。だが現職の大統領がホワイトハウスの仕事をそっちのけでヒラリーを応援するのは異様な光景だ(最後に人気が凋落したGWブッシュはマケイン候補の応援演説をしていない。ビル・クリントンもゴア候補の応援演説はたった2回だ)。

追い込まれても、これまで同様に、民主党陣営はトランプの人格と過去のスキャンダルを攻撃しているだけである。逆にトランプは、最後になって、オバマケアや減税など、政策論の王道に回帰してきた。勝負事の流れからすれば、余裕のなさが出てきたヒラリーよりもトランプが有利だ。ただし、大統領が決まらないケースも含めて、その先のアメリカを柔軟にイメージすることが重要だろう。
 

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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