「深夜食堂」監督が極めた人情噺と料理シーン 「冒頭で作る豚汁は撮影のたびに作ってます」

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――今回は実際に外国人記者が撮影現場に見学に来て、「めしや」はどこにあるのか聞いたと伺っています。

「めしや」というのは幻の店ですが、実在すると思っていたようですね。アジアの人からインタビューを受けた時も、あれを食べてみたい、「めしや」に行ってみたいと、ものすごい熱量を感じました。

――どこかで実際に営業していそうな感じがします。

ああいう細い路地に飲んだり食べたりできる店が固まっていて。しかもそれはセレブな人たちが集まるようなところではない。そこではそれほどお金を持っていなくても食べられると。そういったリアリティーは持たせたいと思っていますね。

「豚汁定食600円」は据え置きです

松岡錠司(まつおか じょうじ) / 1961年生まれ、愛知県出身。1990年に『バタアシ金魚』で劇場用映画デビュー。その後『きらきらひかる』『さよなら、クロ』などを発表、2007年の『東京タワー オカンとボクと、時々オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀監督賞ほか主要5部門を獲得。2009年からのドラマ「深夜食堂」で、そのドラマの枠を越えた世界観を築き上げ、その後にシリーズ化、映画化もされている (撮影:壬生智裕)

――豚汁定食も600円くらいで、非常にリーズナブルです。

やはり物価というものがあるので、実はちょっぴり値上げしようかと思ったんです。でも、原作の安倍さんに怒られますよと言われたので据え置いています(笑)。

――アジアでの人気の理由は、料理の魅力もありつつも、人情ドラマという側面もあるのでは?

他人同士がカウンターで肩を寄せ合って食べるのは、アジアでも独特かもしれませんね。あれが親密さを醸し出している。そしてマスターが尋ねたわけでもないのに、客が普段言わないようなことを自ら語り出す。外国の人も、ああいうのがいいなと思っているのかもしれません。弱みを見せられる場所というか、解決してほしいわけではないんだけど、誰かに話を聞いてほしくて。そこに行けば心がホッとできる場所なんでしょうね。

――アジアでの人気の秘密のひとつとして、マスターの存在というのもあるのかもしれません。

そうですね。マスターも幻ですよとは言っているんですけどね(笑)。でもああいう人に会ってみたくなる。アジアの人に人気なのは、店の雰囲気とかマスターの魅力とかそうした理由が重なり合ったものなんでしょうね。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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