日本の「最貧困地域」再生で見た甘くない現実 「西成特区構想」を率いた経済学者の奮闘

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「闇鍋」で放置されてきたあいりん地区だが、行政を巻き込んでの改革は着々と進行中だ(写真:vasyow / PIXTA)
大阪・西成「あいりん地区」。ピカピカの超高層ビル「あべのハルカス」の足元、縦横1キロメートルの狭い三角地帯に、日雇い労働者、ホームレス、生活保護受給者、そして地元住民と2万人が密集する。これまで勃発した暴動の数24回。3人に1人が生活保護を受け、結核罹患(りかん)率は全国平均の28倍という世界最貧国並みの高さ。少子高齢化、貧困、治安、衛生、差別など社会問題が凝縮し衰退が進む地域の、まさに近未来像を一変させるべく、橋下徹前大阪市長が「西成特区構想」の大号令を発した。その陣頭指揮を託されたのが、学習院大学経済学部教授の鈴木亘氏だ。『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』にはその奮闘が記されている。

衰退しきったどん底のスラムから

──2012年に着任されたときはどんな状況でしたか。

どん底でしたね。ホームレスがあふれ、不法投棄ゴミが散乱し、昼から酒飲んで立ち小便してる。町全体が臭気のドームでした。すべての社会問題を放り込んで、フタしてグツグツ煮えたまま放置されてる、まさに闇鍋状態。衰退しきったスラムでした。大阪万博を機に日雇い労働市場として発展してから50年近く経ち、みんな年取って暴動起こす元気がないだけ。人も減って簡易宿泊所や飲食店は廃れていく。ある意味、暴動がバンバン起きていた時代より問題は根深かったとも思いますね。

──そもそもあいりん地区が“闇鍋”で放置されてきた背景とは?

官も民も、地域内が利害関係者だらけと言っても過言じゃない。支援者組織、労働組合、普通の町内会、商店会に暴力団関係まで、とにかくあらゆる組織がせめぎ合っている。

大阪市側も福祉局あり建設局ありその他各局バラバラに入ってそれぞれの利害だけで動いてる。地域の象徴である「あいりん総合センター」という一つの建物内に国・府・市の管轄が混在する。要するに収拾がつかなくて、行政も避けて通ってきた。一人ひとりと向き合って、地道に合意形成をしていかないと何かの弾みで暴発しかねない状態でした。

──実際、本全体の8割が改革会議本番に向けた地域の根回しや、対役所工作の赤裸々な逸話です。

貧困者対策、不法投棄ゴミ問題、結核、治安対策など喫緊の課題解決と、観光や教育、町の活性化、子育て世代呼び込み策。痛みを伴う構造改革と、明るい将来像という両極を同時進行で議論していきました。

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