電車の座席が窮屈な理由は「肩幅」にあった 現状では平均的な男性でギリギリのサイズ

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新幹線のシートを例に考えるとわかりやすい。たとえば東海道新幹線N700系の3人掛けシートの1人当たりシート幅は窓側・通路側の席が44センチ、真ん中の席が46センチである。真ん中の席が窓側・通路側の席よりも2センチ広いにもかかわらず、窓側・通路側の席のほうが広く感じる。その理由は、窓側の席に座っている乗客は窓の方へ、通路側のシートに座っている乗客は通路の方へ、それぞれ肩やひじを逃すことができるためだ。

大阪環状線323系のロングシート。両端の人がひじを置くスペースがある(撮影:尾形文繁)

「かつての国鉄車両は、ロングシートの両端に座る人が肩を外側に逃がすことで全体の窮屈さを解消していた」と、大森氏は言う。肩を外側に逃がすことで、両端の人はシートの端のほうに体を寄せることになる。このため隣の人との隙間がやや広がり、隣の人の快適性が高まる効果がある。最近の板型の仕切りは、座っている人の肩やひじをある程度逃せるように板の中にくぼみを設けているが、逃せる範囲は板の厚さに限られる。

こうした点を踏まえてJR西日本が新たに開発したのが、大阪環状線に投入される323系である。ウリは2つある。まず、JR西が2005年に投入した通勤電車321系を踏襲し、1人当たりシート幅を47センチにしたことだ。もう1点は、ロングシートの両端の仕切り板を大型にするだけでなく袖を斜めに取り付けることで、両端に座っている人が肩を逃がし、ひじを置けるようにしたことだ。これによって、「両端に座っている乗客はドア方向に肩やひじを逃がすことができるので、両端の人は外側に寄る。そのため全体の窮屈さの解消につながる」(大森氏)というわけだ。

シートの工夫はほかにもある

ロングシートについては、各メーカーが快適性を高めるために工夫を凝らしている。三菱重工業の「G―Fit」というロングシートは座席の背もたれ部分を高くするとともに、左右のサイドを盛り上げることでホールド感を高めた。スポーツカーのシートを横に並べたようなものだ。これによって車両が加減速した際に体がぶれて、隣の乗客と触れることを回避している。また、着座姿勢での足引き効果もあり、通路への足の投げ出しが抑制できる。これにより車内の空間が広がり、より多くの乗客が乗れるというメリットがある。このシートはゆりかもめ「7300系」や埼玉新都市交通「2020系」に設置されている。

また、日立製作所が現在開発中の通勤電車向けシートは、従来の低く、深く腰掛ける形状とは異なり、座面を高くして浅く腰掛ける形状を採用。これによって、立ち座りの動作が楽になるだけでなく、やはり足を投げ出して座ることが抑制されるという。

今回は触れなかったが、さらにシートの生地ひとつとっても、各社ならではの創意工夫がある。車内を快適にするための鉄道会社やメーカーの努力は今日も続く。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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