3人の専門家が読む「新大統領のアジア戦略」 「蜜月の日米関係」に変化が訪れる

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クリントン氏は、大学の授業料無償化から最低賃金、移民法改革まで野心的なアジェンダを抱いているが、それを実現するにはサンダース上院議員らの支援が必要だ。こうした中、政府内では密かにTPP(特にその戦略的重要性)を「救う」ために、日米二国間の自由貿易協定を分離させる案が浮上している。日本政府はこの案に反対していると言われているが、米政府はTPPの完全合意の可能性を目指しながらも、この案を強力に推してくる可能性がある。

対北朝鮮は早期アクションが重要に

<北朝鮮問題>キャスリーン・スティーブンス教授

北朝鮮は金正恩体制下で、核保有国としての立場を確立する政治的活動に力を入れている。2016年だけでも、核実験が2回とミサイル発射が数回行われた。そして来年1月に米国に新大統領が就任する前か直後には、さらなる実験、あるいはそのほかの挑発行為を行う可能性がある。計算違い、あるいは誤解によって紛争が起こるリスクは非常に深刻だ。米国の新旧政権は相互に、そしてアジアの同盟国や友好国と綿密に連携し政策を練り、メッセージを発していかなければいけない。

キャスリーン・スティーブンス(Kathleen Stephens)/ウィリアム・J・ペリーの特別研究員で元駐韓米国大使。現在は米国の韓国政策についての研究、執筆活動に従事している

米国における北朝鮮政策の課題は、過去の民主党、共和党政権がさまざまなアプローチをしてきたにもかかわらず、解決していない問題として次期政権に引き継がれることになる。こうした中、新大統領就任後、数カ月内に新たなチャンスを模索するような動きがあるかもしれない。

新大統領は手始めとして、同盟国や朝鮮半島の非核化推進に加え、2005年9月の6カ国協議で発表された共同声明の構想を守るという姿勢をとりつつ、カギを握る中国などと早期に実質的な意見交換を行うことで、米国の外交政策における北朝鮮の優先度は高いということを示すべきだろう。

また、北朝鮮政府に早期に働きかけることによって、さらなる核実験や挑発行為を抑えることができるほか、新政権は新たな外交アプローチも可能だとのサインを出すことができる。大統領に近い政府高官を特使に任命すれば、新政権が北朝鮮に対していかに真剣なのかを示せるだけでなく、難しい政策の推進や米政府内におけるプロセス管理などもいくぶんやりやすくなるはずだ。

2017年は韓国大統領選挙の年にあたるが、今回は特に難しい選挙になりそうだ。この選挙は北朝鮮政府の外交戦略に加え、国際社会による経済措置の効果にも影響を与えることになるだろう。北朝鮮外交は近年、難しさを増しつつあるが、新政権が取れる新たな戦略は限られている。それでも新政権は、外交的に可能な策を模索し続け、必要に応じて防衛だけでなく、抑止力も誇示しなければならないだろう。

東洋経済オンライン編集部

ベテランから若手まで個性的な部員がそろう編集部。編集作業が中心だが、もちろん取材もこなします(画像はイメージです)

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