脆弱さ露呈、高まる国債の「テールリスク」
市場動向を読む(債券・金利)

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「流動性の低下」が「ボラティリティ」の上昇を招いたという事実は日本も米国も等しくあるものの、日本国債市場では、ポテンシャルな「売却圧力」の大きさ(すなわちストックとしての公的債務あるいは国債発行残高の巨大さ)が市場変動をそれ以上に高めた可能性があるのである。

このポテンシャルな「売却圧力」は、仮にいったん「ボラティリティ」が低下に向かったとしても、日本国債市場における「流動性の低下」が固定化され、市場メカニズムが十分に機能しない状況が続く限り、長期的な懸念として消失することはないだろう。

劇的な環境変化に弱く

将来、5月に起きた以上の何らかの劇的な環境変化が生じた場合に、今回以上の劇的な市場変動が生じてしまうリスクがあるということである。これは「ボラティリティ」の高止まりという事象ではなく、一種の「テールリスク」の高まり(=ファットテール化)というように理解すべきであろう。

もちろん、「テールリスク」(発生確率が統計的な分布の端にある)は、まず滅多に起きないことであるからこそ「テールリスク」なのであり、その発生確率が多少高まったからといって、それを100%回避しようとすれば、通常の投資を行うことも困難になってしまう。実際、「ボラティリティ」が低下しさえすれば、リスクプレミアムの縮小と共に日本国債投資にも徐々に前向きなスタンスが市場では見られてくることが予想される。

しかし、仮にそういう投資行動の変化に伴って長期金利に低下傾向が見えてきたとしても、日本国債市場の「リスク・プロファイルの変化」という構造的な変化には、今後も十分な警戒を持ち続ける必要がある。滅多に起きない「暴落」が発生する確率は、実際にごく微小な数値に過ぎないのではあるが、その確率がこれまでに比べれば、わずかに高まったということを認識しておく必要がある。
 

森田 長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント執行役員/チーフストラテジスト、ウォールズ&ブリッジ代表

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もりた ちょうたろう / Chotaro Morita

慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、SMBC日興証券などで30年以上にわたりマクロ経済、金融・財政政策、債券需給などを分析し、2023年10月から現職。グローバル経済、財政政策、金融政策の分析などマクロ的アプローチを行うことに特色がある。機関投資家から高い評価を得ている。著書に『日本のソブリンリスク 国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社・共著、2011年)、『国債リスク 金利が上昇するとき』(東洋経済新報社、2014年)。

 

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