「第一生命」株式会社化・上場後のシナリオを読む 急浮上する損保ジャパンとの経営統合説

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だが、それでも株式会社化の手続きは極めて煩雑だ。

株式会社化を目指すにはまず、取締役会で方針を決定し、その後の総代会に報告。社員権のある契約者(有配当契約者)一人ひとりに株式会社化の趣旨に関する説明書を送付しなければならない。そのうえで株式会社への移行で社員権を喪失することになる契約者に対する補償スキームを策定。補償基準日を設定して、転換後の株式会社の株式を割り当てる契約者を確定し、契約者の寄与分に応じて割当額を計算するのだ。

寄与分の算定にあたっては、第1段階として契約者の払った保険料とその保険料を運用することで得られた収益から、支払った保険金・給付金や事業費などを差し引いた純資産(残余財産)を保険契約区分ごとに算出。今度はそれを一つひとつの契約ごとに責任準備金、保険金、保険料などの基準で配分する。これが契約1件当たりの割当株式の額になる。

寄与分の計算が終わったら再び総代会を開催して株式会社化の賛否を問い、承認・決議されれば株式交付に関する手続きを契約者に送付し、同時に異議申し立てを受け付ける。総代会決議を無効にするだけの異議申し立てがなければ、金融庁への組織変更の認可申請・承認を経てようやく株式会社化が実現する。

この間、契約者への各種書類(数百ページに及ぶケースもある)の印刷・封入・郵送費や新株発行費用、さらに契約者の寄与分の算定等に要する事務コストは前述のように膨大になる。契約者約200万人の大同生命の場合、150億~200億円の経費負担を強いられたという。

保険金不払いを受けたガバナンス強化の一環として、この3月末をメドに株式会社化の是非を検討していた明治安田生命保険が2月、その「当面の見送り」を決めたのも、こうした事務コスト負担の重荷と株式会社化の効果が釣り合わなかったためだ。関係者の一人は「無理して株式会社化をやろうとすると、新商品開発を停止せざるをえなくなることがわかった」としており、それよりも昨年11月から着手している営業職員制度の見直しなど「営業改革に経営資源を振り向けていくことを優先させる」(松尾憲治社長)。

業界筋によれば、契約者850万人を抱える第一生命が株式会社化すれば、大同生命の例などからみて「少なくとも400億円規模の事務コスト負担を余儀なくされるのは確実」とされている。しかもその費用は元はといえば契約者から集めた保険料がベースだ。それでもなお、株式会社化に踏み切るというのなら転換を通じて、あるいは転換後に、こうしたコスト負担を賄っても余りあるほどのメリットを契約者に提供しなければならないことになる。

ところが転換を通じてメリットを享受できる契約者は、限られてくる。寄与分を算定した結果、割当株式数が1株以上となる契約者は引き続き転換後の株式会社の株主として残ることができるためほとんど問題はないが、1株に満たなかった契約者は、端株部分を売却した代金を現金で渡され、株主としての権利を喪失。さらに寄与分がゼロまたはマイナスと算定された契約者は、ただ単に相互会社の社員権を召し上げられるだけで、株式の割り当ても現金支給さえも受けられないからだ。

実際、大同生命のケースでみると36%の契約者は1株以上の株式割当を受けたものの、38%の契約者は端株のみで現金支給。残り26%は何の見返りもなかったとされている。同社の場合、財務内容が極めて健全で純資産が豊富だったため、こうした割合となったが、それに比べてやや財務内容が劣っていた太陽生命のケースでは、株主となれた契約者は8.4%。株式会社化が事実上の救済策でもあった三井生命に至っては、補償対象契約者262万人強のうち、わずか3599人、0.1%しか株主になれなかった。

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