年間約10兆円!薬剤費の膨張を止められるか あの手この手で無駄をなくせ

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厚生労働省の中央社会保険医療協議会に12年、費用対効果評価専門部会ができた。ここでいう「費用」は、個人の負担ではなく、国全体の負担を指す。今年4月、費用対効果の検討対象になった医薬品は、オプジーボやC型肝炎治療薬のソバルディやハーボニーなど七つ。具体的には、メーカーに分析データの提出を求め、専門家が分析結果の妥当性を検証。次回の薬価改定時に、価値に見合った価格に是正していく。

検証には、「質調整生存年(QALY)」と呼ばれる指標を使う。QALYは、薬によって延びた生存年数に、その間の生活の質も加味したもの。すでに英国などで利用実績がある。

英国では、医療費はすべて国の税金で賄われており、費用対効果への意識は高い。一方、医療サービスの内容に地域間格差があったことから、1999年に国立医療技術評価機構(NICE)が創設され、薬などの費用対効果を測り、使い方の推奨などを提言するようになった。

実績積み重ねる英国

NICEの基準は、「1QALY(健康で活動的に1年生きている状態)当たりの費用が、2万~3万ポンド(約250万~380万円)以下であれば費用対効果として良好。それ以上であれば税金の賢い使い方とは言えない」。単なる総医療費の削減ではなく、定められた財源の中で、より効率的な治療を提供することをめざす。

NICEが肯定的な提言をした場合、すべての地域の医療機関はその決定に基づいた治療を3カ月以内に提供することが義務付けられる。逆に否定的な提言に強制力はないが、「費用対効果に見合ったものではない」とされると、その薬の使用は事実上難しくなる。

NICEは最近、高額の抗がん薬を中心に評価し、約半数について「費用対効果の点から非推奨」とした。

国際医療福祉大学薬学部の池田俊也教授は、「例えば、延命効果が数週間の抗がん剤があるとすると、患者にとって数週間はとても重要だが、そこにかけるコストも考慮せざるを得ない」と語る。

日本でもこれまで、2年に1度の診療報酬改定に合わせて、すべての薬剤について薬価を見直してきたが、その基準は市場価格の動向だった。費用対効果評価専門部会の参考人でもある池田氏は、「日本では、患者や社会にとってどれぐらい価値があるのかという視点で薬価が定められていなかった。現場でも、例えば生活習慣病の薬に複数の選択肢がある中で、効き目が同等ならより安価な物をといったコンセンサスがなかった」と指摘する。18年からは、高額な薬剤や医療機器などについて費用対効果指標に基づいて、薬価の見直しが行われる予定だ。

後発医薬品なら4割安

医療経済にも、個人の財布にとっても「救世主」と期待されるのが、後発医薬品(ジェネリック)だ。

新薬が市場に出るまでには10年以上もの年月と数百億円規模の研究開発費がかかるため、先発品の公定価格(薬価)はそのコストを回収できるよう、高めに設定される。さらに、特許申請から20~25年間は、先発品メーカーにその薬を独占的に販売できる権利があるが、特許期間切れを迎えた薬は、他の製薬会社が効能・効果、用法・用量などが同じ医薬品を製造・販売できるようになる。これがジェネリックで、先発品に比べて開発費用がかからないため、価格も先発品の6割以下に抑えられることが多い。

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