トクヤマ、2000億円投資はなぜ失敗したか? 横田社長が語る敗因の本質と再建への道筋

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前経営陣が2000億円を超える巨費を投じ、マレーシアで立ち上げた太陽電池用シリコン工場

100年の歴史を誇る山口県発祥の化学メーカー、トクヤマが、前経営陣の残した負の遺産との訣別に踏み切った。巨費を投じて立ち上げたマレーシア工場のことだ。今年9月下旬、同工場を2017年春に韓国企業へ売却する、と発表した。

マレーシア工場は、太陽電池パネルの原料シリコンを生産するために社運を賭けて立ち上げた新工場。“ソーラーバブル”で市況が高騰していた2009年に工場建設を決定。2011年には第2工場の建設も決め、総額で2100億円もの資金をつぎ込んだ。

が、太陽電池用シリコンには一攫千金を狙った中国、韓国勢も相次ぎ参入し、たちまち供給過剰状態に。2009年当時に1キロ当たり60ドル以上していた市況は2011年後半から暴落し始め、20ドルを割り込む水準にまで落ち込んだ。

連結自己資本の8割近くが吹き飛ぶ

こうした中で竣工を迎えたマレーシア工場(第1は2013年、第2は2014年に完成)は、投資回収の計画が根底から崩れ、2014、2015年度の決算で合計約2000億円もの減損損失を計上。2年連続の巨額赤字決算により、トクヤマは2300億円あった連結自己資本の実に8割近くが吹き飛び、財務に大きな傷を負った。

プロジェクトを推し進めた当時の社長らは昨年春に引責辞任。再建を託された横田浩社長にとって、負の遺産と化したマレーシア工場の後始末は最大の懸案事項だった。工場売却に踏み切った経営判断と今後の経営再建について、横田社長に聞いた。

――今回、マレーシア工場を売却し、太陽電池用シリコン事業から撤退することを決めた。

マレーシア工場は投資額のほぼ全額を減損して減価償却負担がなくなったが、それでも太陽電池用シリコンの厳しい市況下で赤字操業が続いている。この産業は典型的な供給過剰構造にあり、当社にとって、今後も事業を継続していくのはリスクが大き過ぎると判断した。

事業を継続するなら、生産性を上げるための設備改良など追加投資が必要になる。大きいプラントなので、ちょっといじっただけで何十億円、何カ所かいじればすぐに100億円だ。それで大きく儲かるならまだいいが、今の市況では黒字化できても金額は微々たるもの。市況がさらに悪化する可能性だって当然あるわけで、そうした市況リスクに晒されながら、今後も追加投資をやっていくなんて、私には到底考えられない。

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